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C型レクチンは古細菌からヒトまで広汎に存在するレクチンである。C型レクチン受容体はC型レクチンの一種で、細胞外に糖鎖結合ドメイン(Carbohydrate recognition domain、CRD)を持つ、II型の膜蛋白質である。C型レクチン受容体は細胞外のCRDへリガンドが結合すると、細胞内の特徴的なシグナルモチーフを介してシグナルが伝達される。マクロファージや樹状細胞上に発現したC型レクチン受容体は、外来異物や損傷自己に由来する糖鎖や糖脂質を認識し、貪食や炎症性サイトカインの産生などの免疫応答を行う。
Mincle (Macrophage-inducible C-type lectin、遺伝子名:Clec4e)は免疫活性型C型レクチン受容体の一つであり、単球やマクロファージに発現している(1)。リガンド刺激によりMincleが活性化されると、まずアダプター分子であるFcRγ上の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif, ITAM)を介して、チロシンキナーゼであるSykをリクルートする。その後、下流のNF-κBを始めとする転写因子を活性化することで、TNFやIL6などの炎症性サイトカインの発現を上昇させる。これまでの研究から、Mincleは外因性(非自己)および内因性(自己)の双方に由来する多様な(糖)脂質をリガンドとして認識することが明らかになった。本稿ではその一部を紹介する。
Mincleの非自己リガンドとして、まず結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の細胞壁に豊富に存在する糖脂質、トレハロース6,6’ジミコール酸(TDM)が挙げられる(2)(図1A)。TDMは別名コード因子とも呼ばれ、Mincleを介して炎症性サイトカインの産生や一酸化窒素の産生などの免疫応答を引き起こし、肺の肉下種の形成に関与している。これまでの構造生物学的研究から(3)、MincleはCRDを介してTDMの糖鎖部分であるトレハロース(Glcα1-1Glc)を精密に認識していることが明らかになった。トレハロースは2つのグルコース残基からなるが、一残基のグルコースがCRDに結合したカルシウムイオンを介して相互作用し、もう一残基のグルコースがカルシウムイオン結合部位周辺のアミノ酸残基と密に相互作用していた。興味深いことに、トレハロース結合部位の周辺には疎水性のアミノ酸によって構成された特徴的な溝が存在することが明らかになり、この溝を介してTDMのアシル基を認識していると推定されている(図1B)。また、ヒトMincleは種特異的に結核菌の細胞壁に存在するミコール酸含有脂質であるグリセロールモノミコール酸(GroMM)を認識する(4)。このヒト特異的な相互作用は疎水性の溝のアミノ酸残基の違いに起因することが変異体解析から明らかになった。GroMMは糖鎖部分を持たないため、Mincleとの結合様式は不明であり、今後のさらなる解明が待たれる。
一方、最近の研究からMincleがピロリ菌(Helicobacter pylori)の代謝産物であるCholesteryl acyl α-glucoside (αCAG) (図1A)を認識し、胃炎の増悪を引き起こすことが明らかになった(5)。興味深いことにピロリ菌は自身ではコレステロールを合成することができないため、宿主のコレステロールを取り込んでαCAGを合成する。
Mincleは外因性のみならず、損傷自己から放出される様々な(糖)脂質を内因性リガンドとして認識し、炎症などの免疫応答を惹起する。そのようなMincleの内因性リガンドの一つにβ-グルコシルセラミド(βGlcCer)がある(6)(図1A)。βGlcCerは正常時には小胞体やゴルジ体膜など、細胞の内部に存在するため、正常細胞のβGlcCerはMincleと接することはない。しかし細胞に傷害が生じるとβGlcCerが外部に放出され、Mincleを刺激することで炎症性サイトカインの産生を誘導する。この免疫応答はラクトシルセラミドやガラクトシルセラミドでは起こらないことから、グルコースがMincleの認識に重要であると考えられる。またもう一つの内因性リガンドとして、様々な慢性炎症に関与するコレステロール結晶が挙げられる(7)(図1A)。ヒトMincleはコレステロール結晶を種特異的に認識し、TNFやMIP-2などの炎症性サイトカインの産生を誘導する。Mincleのコレステロール結晶の認識は未だ不明だが、変異体解析からTDMとは結合部位が異なることが示唆されている。
Mincleは外因性、内因性を問わず、多様な糖脂質および脂質リガンドを柔軟に認識し、感染防御や様々な炎症性疾患への関与が次々と明らかになっている。Mincleには種特異的なリガンドも多く、こうした種特異的リガンドの認識は生存環境に即した免疫応答に寄与すると考えられている。こうした生理機能解析に比較してMincleのリガンド認識に関する研究は非常に少ない。今後は分子認識から生理機能まで多次元の解析の進展が待たれる。
図 1. Mincleのリガンドと糖脂質の認識機構
A. 本稿で紹介した外因性および内因性のMincleリガンド。TDM: Trehalose 6,6’-dimycholate, αCAG: Cholesteryl acyl α-glucoside, β-GlcCer: β-glucosylceramide. B. MincleとTDMの糖鎖部分であるトレハロースとの複合体構造(PDBコード:4ZRW)。Mincle CRDを分子表面モデルで、トレハロースを球状モデルで示す。Mincle表面は荷電性(正電荷:青、負電荷:赤)および疎水性(黄色)で着色した。糖鎖結合部位と脂質結合部位をそれぞれ指示した。この図はPyMOL2.0を用いて作成した。
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長江 雅倫、山﨑 晶(大阪大学微生物病研究所、免疫学フロンティア研究センター)
References |
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2023年 6月15日
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