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ヒマ(Ricinus communis L.)種子から単離されたリシンは、1888年Stillmarkにより最初に発見された植物レクチンであり、異なる2つのサブユニット、A鎖(約30KDa)とB鎖(32KDa)がジスルフィド結合で繋がった猛毒性タンパク質である。リシンのA鎖は、リボゾームRNAの特定のアデニン塩基を切断するRNA N-グリコシダーゼ活性を持ち、この酵素作用により、リボゾームを不活化し、タンパク合成を阻害する。リシンのレクチンサブユニットB鎖は、標的細胞表層の糖鎖に結合し、毒素を細胞内に取り込ませるという重要な役割を持つ。リシンは、タイプ 2リボゾーム不活化タンパク質(Ribosome-Inactivating Protein, RIP)に属し、毒性サブユニットA鎖のみから成るタイプ1RIPと区別される。後者のタイプ1RIPは、B鎖が欠損しているためタイプ2RIPに比べて、細胞毒性が大幅に低下している。しかしながら、タイプ1RIPは、液相エンドサイトーシスで細胞内への侵入が可能であり、また、Saponaria officinalisから得たsaporinの場合では、ヒト細胞表層上のα2-マクログロブリン受容体に結合することにより、細胞質内に取り込まれることが知られている。タイプ1RIPは、すでに50種を越える単子葉や双子葉植物から単離されており、タイプ2RIPよりも普遍的に存在している。分子進化的には、タイプ1RIPとガラクトース結合型レクチンの祖先遺伝子が融合し、タイプ2RIPが生成されたと推測されている。現在までに、リシンと同様な細胞毒性を持つタイプ2 RIPは、ricin, abrin, viscumin, modeccin,volkensin 及びEranthis hyemalisレクチンの6種が報告されている。
近年、毒性を持たない新規なタイプ 2 RIP及びリシン関連タンパク質が、ニワトコ(Sumbucus)属の樹木の樹皮、葉及び根から見出された。無毒性のタイプ2RIPであるnigrin-b, sieboldin-b、ebulin-f、ebulin-rなどは、リシンや従来知られているタイプ2RIPと同様な構造を持ち、また、RNA N-グリコシダーゼ活性を保持していた。これらの無毒性タイプ2RIPのB鎖は、リシンと同様Gal/GalNAc残基に結合特異性を持つが、最近見つかったタイプ2RIPでは、糖結合活性が欠損していた。興味深いことに、これらの新規なタイプ2RIPは、リシンと同様にウサギ網状赤血球ライセートによるタンパク合成を強く阻害するが、細胞及び動物に対する毒性は極めて低かった。一方、2種のサブユニット(A鎖、B鎖)から成る4量体のニワトコ樹皮レクチン(SSA、SNAなど)は、Neu5Ac(α2-6)Gal/GalNAc単位を認識するユニークな糖結合特性を持ったレクチンとして知られているが、cDNAクローニングの結果、それぞれのサブユニットがリシンの毒性サブユニットであるA鎖及びGal/GalNAcを認識するリシンのB鎖と一次構造のみでなく、三次構造においても高い相同性を示すことが明らかになった。しかし、これらのレクチンは、リシンのような動物に対する毒性及び細胞毒性をほとんど示さない上、A鎖によるウサギ網状赤血球ライセートの無細胞系のタンパク合成の阻害も見られなかった。こうした生物活性は、SSAやSNAと構造的に類似しているR.communisのRCA-120が、強いタンパク合成阻害活性を示すこととも異なっていた。これら以外にニワトコ属植物からは、タイプ1RIP(糖結合サブユニットB鎖の欠損)や遊離のB鎖(A鎖の欠損)と考えられるレクチンが見つかっている。
タイプ1RIP中には、抗ウイルス活性や抗菌活性をもつものが知られており、また、タイプ1RIPやタイプ2RIPのA鎖は、イムノトキシンの毒性部分として用いられている。最近相次いで見出されたニワトコ属植物由来のさまざまなタイプ1及びタイプ2 RIPやリシン関連タンパク質群は、リシン関連タンパク質の生物機能や分子進化上の関係について新たな興味深い問題を提起している。 | |
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