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フロンタル分析を利用する糖-タンパク質相互作用解析
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フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(以下、FAC)は笠井らによって開発された定量的アフィニティークロマトグラフィーで、酵素、レクチンなどの生体物質と基質アナログ、オリゴ糖鎖間の親和力を精度高く決定できる方法である。この目的の方法としては、古くは平衡透析法、近年ではビアコアに代表されるバイオセンサー技術が広く浸透しているが、測定精度、簡便さ、あるいは経済性などの点で問題もある。FACの長所として、原理が明快であること、装置の簡素さ(安さ)が先ず挙げられる(図1)。式(1)で表されるFACの基本式は酵素動力学で用いられるミカエリス・メンテン式と基本的に同質で、後者で変数として扱われる「基質濃度」 s、「反応速度」 vがFACでは[A]0(溶出に用いる物質 A の初濃度)、および V-V0 (溶出前端の遅れ)に相当する。ここで、V0は固定化リガンドBと全く相互作用しない物質の溶出前端容量である。[A]0を変化させたときのV-V0 値の変化をLineweber-Burk型の両逆数プロットで解析すると(式(2)参照)、有効リガンド量 Bt(酵素動力学の最大速度 Vmax に相当)と解離定数 Kd(単位は M;ミカエリス定数 KMに相当)が求まる。さらに、FACが弱い相互作用の解析に適していることを強調したい。したがって、FACは抗原・抗体反応等と比べ一般に弱いとされるレクチン・オリゴ糖鎖間の相互作用解析で特に威力を発揮する。
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図.1
FACの原理:レクチンなどのリガンドを固定化したカラムに一定濃度([A]0)の A を流し続ける。もし、A が B と全く相互作用しない場合はV0 だけ流したところで A の溶出前端(図中平坦部の半分の濃度を与える位置)が現れるが、相互作用がある場合には溶出前端位置(V)はV-V0 分だけ遅れる。[A]0が十分小さいとき([A]0 << Kd)、V-V0 値はFACの基本式(3)から結合定数(解離定数の逆数)に比例した値となる。 |
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従来のFACでは比較的大きいサイズのオープンカラムを用い低流速で解析を行っていたため、解析に要する時間が長く、試料の必要量も多かった。最近、FACの高性能化が複数の研究室で実現化されている。平林らはミニチュアカラム(サイズ、0.126 ml)にレクチンや糖タンパク質を固定化した樹脂を詰め、ここにそれぞれ蛍光標識したオリゴ糖やレクチン溶液を大きめのサンプルループを介して、一定濃度、一定流速で溶出させ蛍光検出する簡便なHPLCシステム(図2)を構築した。オリゴ糖としてピリジルアミノ化した糖鎖(宝酒造、生化学工業から市販)を用いた場合、10 nM溶液、2 mlで十分精度の高いデータが得られ、一解析に要する時間も約10分で済む。線虫ガレクチンLEC-6固定化カラムとピリジルアミノ化糖鎖を用いた分析例を図3に示す。溶出前端を決定するには従来作図法が用いられてきたが、分析系の微量化に伴いより精密化が求められるようになった。この目的のために、荒田らは市販の表計算ソフトExcelを用いる解析プログラムを開発している。
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図.3
FACの解析例:C. elegansガレクチンLEC-6を固定化したカラム(7.44 mg/mlゲル)に糖脂質由来のオリゴ糖溶液(ピリジルアミノ化体、10 nM)6種を2 mlのサンプルループを介して0.25 ml/minの流速で注入する。V0はラムノースの溶出位置として求めている。各オリゴ糖に対するKd値はp-アミノフェニルラクトシドの濃度変化解析からBtを求め、FACの基本式(1)から算出している。 |
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高性能FACはレクチンを固定化しても、逆に糖質を固定化しても実施可能である。しかし、一般に固定化レクチンカラムを調製し、これに様々な構造の標識糖鎖を流し親和性を比較する方が需要が多く、また問題も比較的少ないようである。因みに、レクチンを糖質固定化カラムに流す場合、蛍光検出のためトリプトファンを含むことが前提となる。検出に必要なタンパク濃度は1μg/mlで十分なため、数マイクログラムの試料があればよい。一方、レクチンを固定化する際にはレクチンの安定性やオリゴマー形成の多様化など、いくつかの点に留意しなければならない。特に活性化ゲル(Pharmacia社製、HiTrap NHS-activatedなど)とレクチン間で多点結合が形成されると有効リガンド量 Bt が著しく低下することがあるので注意が必要である。この場合、固定化時に Tris などのアミン類を共存させることで改善が見られる場合が多い。予め固定化反応に関わるリジン残基の分布を調べておくことも重要だろう。有効リガンド量 Bt を固定化量(mol)で割った値は有効リガンド率と呼ばれ、通常20-60%の範囲となる。
Kd、Btを求めるには、ある親和性を持った糖の濃度を変化させLineweber-Burk型のプロット、もしくはV-V0 vs. [A]0(V-V0) のWoolfe-Hofstee型プロット(こちらの方が一般に得られる回帰直線の直線性は悪いが信頼度は高い)を行う。しかし、一般に入手可能な、しかも安価な標識糖(p-アミノフェニルβラクトシドなど。この場合は紫外吸収A280による検出を行う)は限られている。もし、一定量の非標識糖鎖が手に入れば、これを一定濃度の標識糖鎖と混合させ上記濃度解析を行うことが可能である。ただし、この場合レクチンの両糖鎖に対する親和性が本質的に同一であることを確かめておく必要がある。一方、糖の初濃度 [A]0 が用いるレクチン B に対する Kd と比べ十分小さい(Kd >> [A]0 )とき、FACの基本式(1)は(3)の様に近似でき、各オリゴ糖とレクチン間の親和力は単にV-V0に比例した値と考えて差し支えない。
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平林 淳(帝京大学・薬学部) |
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References |
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Kasai K, Oda Y, Nishikawa S, Ishii S : Theory for its application to studies on specific interaction of biomolecules. J. Chromatogr. 376, 33-47, 1986
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(2) |
Hirabayashi J, Arata Y, Kasai, Y : Reinforcement of frontal affinity chromatography for effective analysis of lectin-oligosaccharide interactions. J. Chromatogr. A, 890, 261-271, 2000
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(3) |
Arata Y, Hirabayashi J, Kasai K : Sugar binding properties of the two lectin domains of the tandem repeat-type galectin LEC-1 (N32) of Caenorhabditis elegans. J. Biol. Chem. 276, 3068-3077, 2001
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(4) |
Schriemer DC, Bundle DR, Li L, Hindsgaul O : Micro-scale frontal affinity chromatography with mass spectrometric detection: a new method for the screening of compound libraries. Angew. Chem. Int. Ed. 37 (1998), 3383-3387,1998
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2001年 6月 15日 |
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