糖の高感度分析法 |
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(First version published:1999年12月15日) | |||||||||||||||||||||||||||||
糖タンパク質やグリコサミノグリカンなどの複合糖質に含まれるオリゴ糖の分布状況を詳細に解析するには、まず糖鎖を遊離させ、個々のオリゴ糖に分離し、構造解析に供される。この分離の手段としては液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動が利用される。しかし、糖鎖にバリエーションが多く、量的に微量である場合は、高感度かつ優れた特異性を有する検出法と高い分離能を兼ね備えた分析法が求められる。ここでは、よく用いられる糖鎖の蛍光標識法を中心に紹介する。 糖の構造化学的な最大の特徴は還元末端に反応性の高いアルデヒド基あるいはケト基を有することである。これらのカルボニル基を化学的に標識するために、広く用いられるのが還元的アミノ化反応である (図1)。この目的のために様々な芳香族アミン系の蛍光性試薬(図2)が報告されている。長谷らによって開発された2-アミノピリジンを用いる方法(1)は、高橋らによって2次元および3次元分離へと応用され(2,3)、逆相系ODS, 順相系アミドカラムおよび陰イオン交換系DEAE-カラムを用いて分離したデータを解析(マッピング)することによりオリゴ糖を同定することが可能である。また、最近ではさらに高感度化と高分離能を得るための方法としてキャピラリー電気泳動(CE)が生まれた。これは内径50μm程度のフューズドシリカ管内で試料を分離する自由電気泳動法の一種である。CEでは検出部にレーザー励起蛍光(LIF)検出を利用することが多い。中でも8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)は強酸性の誘導体を与えるために分析時間が短縮される上、糖と結合すると励起波長が長波長にシフト(424 → 456 nm)するので、Arレーザーと相性がよい。その結果、反応後の過剰試薬を除去することなく、オリゴ糖誘導体を高感度かつ良好な分離を得ることが出来る。特にAPTSについてはGuttmanらによって多くの糖タンパク質糖鎖の分離例が報告されている[4]。CEにおける検出限界は10-18 molに達し,既にCE型96連DNAシーケンサーを使って自動分析した例(5)も報告され、糖鎖のルーチン分析に利用されるものと期待される。 しかしながら、いずれの方法もシアル酸のような酸に不安定な糖残基の脱離が起きる可能性がある上、試薬自体が蛍光をもつため、反応後の過剰試薬を取り除く必要があり、試薬の純度にも注意を払わなければならない。 |
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一般に還元的アミノ化反応はケトースやシアル酸の標識には向いていない。特にシアル酸に対してはベンゼンジアミノ誘導体を使って標識される。1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン(DMB)はα-ケト酸と特異的に反応する試薬で、強い蛍光性のキノキサリン誘導体を与える(図3)。これを、逆相HPLCにより分析した例が原らによって報告されている(6)。ところが、この反応条件では試薬と誘導体の酸化を妨げるため高濃度の還元剤が必要となる。そこで、Anumulaらによって開発されたo-フェニレンジアミン(OPD)を用いる方法ではDMB法に比べ、反応が簡便で、シアル酸結合糖鎖を高感度かつ定量的に分析することができる(7)。 ところで、生体試料そのままといった夾雑物質の多い試料に対しては、特に糖鎖の調製に注意が必要になる。西村らのグループは糖鎖の還元末端を蛍光ラベル化すると同時に捕捉するポリマー担体を開発した(8)。得られた糖鎖試料はHPLC、MALDI-TOF MS等による分析に適しており、糖鎖の構造解析にも応用できるため、糖鎖の機能解明の促進に繋がる手法となることが期待される。 |
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吉年正宏・鈴木茂生 (近畿大学 薬学部) | |||||||||||||||||||||||||||||
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2007年 4月 23日 | |||||||||||||||||||||||||||||
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