Glycoprotein
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グリコシルトランスフェラーゼの切断と分泌の分子機構

 糖転移酵素の多くはII型の膜タンパク質構造を持ち、小胞体やゴルジ装置と称される袋状の細胞内小器官の膜に埋め込まれて存在している。これらの糖転移酵素はいわゆる“ステム領域”で切断を受け、酵素の触媒領域が活性を保ったまま細胞外に分泌される[1]。事実、様々な糖転移酵素が血清や乳汁中などに分泌型酵素として見つかっており、その分泌量は癌化や炎症などの病的状態によって変動することが知られている。しかし、その切断と分泌のメカニズムについては不明な点が多い。

このメカニズムの解明の第一歩となるのは、糖転移酵素を切断するタンパク質分解酵素の同定であろう。その初めての報告例として、セクレターゼというタンパク質分解酵素が2,6シアル酸転移酵素の切断を行っていることが発見された[2]。セクレターゼはもともとアミロイド前駆体タンパク質を切断し、アミロイドというペプチド断片の産生の引き金を引く酵素として同定された[3]。産生されたアミロイドが脳組織へ沈着するとアルツハイマー病が引き起こされることから、セクレターゼはアルツハイマー病の原因酵素と考えられている。セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質の切断はトランスゴルジネットワークと称される小器官の中で起こる。同じコンパートメントに存在する2,6シアル酸転移酵素がセクレターゼで切断されるのは受け入れやすい事実である。しかし、トランスゴルジネットワークに存在する種々の糖転移酵素の切断・分泌速度はかならずしも一定ではない。この差はセクレターゼの基質特異性によるのか、あるいは基質との接触(accessibility)に依存するのか等は未だ検討されていない。また、種々の糖転移酵素は小胞体からトランスゴルジネットワークに至る膜系の中に高度に組織化された局在を示すと考えられている。この仮説が正しいとすれば、セクレターゼのみですべての糖転移酵素の切断を説明できるとは考えにくい。それぞれのコンパートメントに特有のタンパク質分解酵素が存在するのかもしれない。どのような分解酵素が存在するのか、またその切断の特異性や基質となる糖転移酵素のaccessibilityなどを今後検討していく必要があるだろう。また、これらのタンパク質分解酵素は、単に余分な糖転移酵素の廃棄システムとしてではなく、糖鎖発現に対して積極的な調節機能を持っているかもしれない。今後、この点を解明することが最も重要な課題であると考えられる。
橋本康弘、北爪(川口)しのぶ
(理化学研究所・フロンティア研究システム・糖鎖機能研究チーム)
References (1) Paulson JC, Colley KJ, J. Biol. Chem. 264, 17615-17618, 1989
(2) Kitazume S, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 13554-13559, 2001
(3) Selkoe DJ, Physiol. Rev. 81, 741-766, 2001
2002年 6月 15日

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