Glycoprotein
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HNK-1糖鎖抗原の生物学的役割

  ヒトT細胞株(HSB-2)を免疫原として作成された単クローン抗体HNK-1によって認識される抗原分子をHNK-1糖鎖抗原と呼ぶ(1)。HNK-1糖鎖抗原を認識する単クローン抗体としてはHNK-1抗体以外にL2、NC-1、4F4、M6749、などが知られている。本抗原分子は免疫系において、ヒトナチュラルキラー細胞などの細胞表面に発現していることが知られており、別名CD57と呼ばれている。本糖鎖抗原は、免疫系および神経系に特徴的に分布する。糖タンパク質と糖脂質のいずれにも発現されるが、糖タンパク質についてはNCAM, L1, MAG, TAG-1, P0などの細胞接着に係わる分子に発現している。


構造
 HNK-1抗体と反応性を示す糖脂質は2種類単離されてお、りその構造は既に決定されている。糖タンパク質上のHNK-1糖鎖抗原の構造については、P0タンパク質について報告されている。いずれの場合も、N-アセチルラクトサミン構造の末端に3位の硫酸化されグルクロン酸が結合している点が特徴的である。なおHNK-1抗体との反応には硫酸基が必須である。


発現、分布
 神経系におけるHNK-1糖鎖抗原の発現は一様ではなく、発生過程において時間的、空間的に厳密に制御されている。大脳皮質では出生前後に比較的高発現しているが、この時期はシナプス形成期に対応するものと考えられる。また、神経発生初期において移動中の神経冠細胞がHNK-1糖鎖抗原を高発現すること、菱脳の神経分節や小脳の分子層にHNK-1糖鎖抗原の発現が陽性の部分と陰性の部分が交互に現れること、などが知られている。


生合成
 本糖鎖抗原生合成の中心的役割を担う酵素はグルクロン酸転移酵素と硫酸基転移酵素である。グルクロン酸転移酵素については、糖脂質を糖受容体とする酵素(GlcAT-L)と糖タンパク質を糖受容体とする酵素(GlcAT-P)が存在すると考えられている。GlcAT-Pについては既にそのcDNAが単離され、構造が決定されている(2)。硫酸基転移酵素は糖脂質糖タンパク質に共通であると考えられており、そのcDNAも既に単離されている(3)。


機能
 HNK-1糖鎖がその機能を発揮する機構としては2つの場合が考えられる。1)HNK-1糖鎖抗原それ自身に機能があり、これと結合する分子(受容体)を通してその機能が発揮される場合。2)NCAM分子のホモフィリックな結合がポリシアル酸によって調節されているように、HNK-1糖鎖抗原も細胞接着分子に発現することによりタンパク部分の機能を調節している場合である。HNK-1糖鎖抗原に対する結合分子(受容体)としてラミニンやセレクチン、アンフォテリンなどが報告されている。いずれにしてもHNK-1糖鎖抗原が神経系において細胞の接着や移動、神経突起の伸長に関与しているのは事実のようである。今後は、HNK-1糖鎖抗原が神経回路形成の機構において、どのような部分をどのように担当しているのかを明確にすることが重要である。また免疫系における本糖鎖抗原の役割についても全く解明されていないのが現状であり、その機能解明が待ち望まれている。
図

図の説明 HNK-1 糖鎖抗原の機能:細胞表面に発現したHNK-1 糖鎖抗原は、他の細胞やマトリックスのタンパク質(受容体)と結合することにより、細胞 - 細胞の相互作用、あるいは細胞 - 基質相互作用を制御し、または細胞接着分子の機能を調節している。
岡 昌吾(京都大学・薬学部)
References(1) Abo, T, Balch, CM : A differentiation antigen of human NK and K cells identified by a monoclonal antibody (HNK-1). J. Immunol. 127, 1024-1029, 1981
(2) Terayama, K, Oka, S, Seiki, T, Miki, Y, Nakamura, A, Kozutsumi, Y, Takio, K, Kawasaki, T : Cloning and functional expression of a novel glucuronyltransferase involved in the biosynthesis of the carbohydrate epitope HNK-1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 6093-6098, 1997
(3) Bakker, H, Friedmann, I, Oka, S, Kawasaki, T, Nifantev, N, Schachner, M, Mantei, N : Expression Cloning of a cDNA Encoding a Sulfotransferase Involved in the Biosynthesis of the HNK-1 Carbohydrate Epitope. J. Biol. Chem. 272, 29942-29946, 1997
1998年 6月 15日

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