Guillain-Barr症候群と抗ガングリオシド複合体抗体 |
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(First version published: 2000年3月15日) | |||||||||||
Guillain-Barr症候群(GBS)をはじめとする免疫性ニューロパチーは、末梢神経を標的とする自己免疫疾患であるが、近年の自己抗体の解析により、ガングリオシドが重要な標的分子であることが明らかになっている。最近われわれは、複数のガングリオシドの混合抗原を対象として抗体を測定することにより、単独のガングリオシドではなく、複数のガングリオシドの糖鎖が形成するあらたなエピトープ(ガングリオシド複合体)を認識する抗体が存在することを明らかにした。 ガングリオシド複合体の発見のきっかけは、重症なGBS患者血中抗体が未精製のウシ脳ガングリオシドの粗分画を対象としたTLC免疫染色で、ある抗原に対して非常に強い反応を示したことにあった。その抗原の移動度はGD1aガングリオシドの少し下に相当し、シャープで強い反応が認められたが、GD1a, GD1b, GalNAc-GD1aなどの単独の抗原とは全く反応がみられなかった。何らかの未知の抗原と考え精製を試みたが、精製の最初の段階では強い反応がみられるが、最終段階になると反応が消失することを繰り返した。そこで、その反応にはGD1aとGD1bの両方のガングリオシドが関係しているのではないかと考え、両者をELISAのひとつのウェルに入れて反応をみたところ、予想が的中し非常に強い反応が得られた(図)1。両者の混合比を変えて反応をみたところ、大体1:1が比としては最適であることがわかった。この反応特性は、TLC免疫染色にても確認された。すなわちTLCにGD1a, GD1b単独をそれぞれ別のレーンに展開して血清を反応させても反応はみられないが、両者を同じレーンに展開するとGD1aの下端とGD1bの上端のオーバーラップした部分に強い反応が認められた。このことからこの症例の抗体の標的はGD1aとGD1bの両者により形成されるエピトープであることがわかった1,2。そこで、症例数を増やし、234例のGBS血清について、GM1, GD1a, GD1b, GT1bの4種のガングリオシドのうち2つの組み合わせの混合抗原(6種類)に対する抗体活性をみた。その結果、234例中39例(17%)に何らかの複合体に対する抗体がみられた。この複合体抗体が臨床的に重要なのは、重症度と関連するためであり、なかでもGD1a/GD1bとGD1b/GT1bに対する抗体はいずれも呼吸筋麻痺をきたす重症GBSにみられる頻度が有意に高いことが明らかになっている2。これらの複合体抗体は重症化のメカニズム解明の手がかりとなると同時に、重症化のマーカーとして臨床応用することが可能である。上記のガングリオシド複合体抗体は、C.jejuniを中心とする消化器感染が先行する例が多い。複合体に対する抗体産生がどのような機序でおこるかの詳細は不明だが、C.jejuni菌体上の類似の糖鎖エピトープが免疫系を刺激することにより産生される可能性が考えられる。 GBSでガングリオシド複合体に対する抗体の上昇がみられたため、GBSとの類似性から、抗GQ1b IgG抗体が高頻度にみられるフィッシャー症候群患者血清についても同様の検討を行った。その結果、GQ1bのみに比較して他のガングリオシドを混合した抗原に対してより強い反応を示す「複合体に特異性をもつと考えられる抗体」の陽性例が58%と高率であることがわかった。複合体の内容としてはさまざまであるが、大別してGQ1b/GM1陽性例とGQ1b/GD1a陽性例に分けることができ、前者では感覚障害の頻度が低いこともわかった3。 |
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新たな標的抗原としてのガングリオシド複合体に対する抗体の発見は、従来の抗体測定では陰性であった症例についても、何らかの抗体が存在する可能性を提示するものであり、抗ガングリオシド抗体測定の有用性を高めるものである。今後、各ガングリオシド複合体の局在解析、抗ガングリオシド複合体抗体上昇を伴った動物モデルの作成などの検討を行う必要がある。それらを通じて、抗ガングリオシド複合体抗体の病因的意義がより明らかになっていくと考えられる。 |
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楠 進 (近畿大学医学部神経内科) | |||||||||||
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2007年 6月 12日 | |||||||||||
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