Glycolipid
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ガングリオシドと神経機能

 1.神経栄養因子様効果
 ガングリオシドがニューロンの分化を促進するとの発見は、遺伝性ガングリオシド蓄積症に巨大神経突起が生じることに端を発している。その後ガングリオシドの神経線維進展作用が in vitro, in vivo で研究されてきたが、最近になってその神経栄養因子様効果の発現機構に迫る報告が出てきている。(a)武藤ら(文献1)は、GM1が NGF 受容体に結合して蛋白リン酸化を調節していることを明らかにした。(b)Ledeenらのグループ(文献2)は、細胞核内に存在して遺伝子発現に関わっている可能性を示唆している。


2.神経機能への関わり
 ガングリオシドは神経系に多く存在していることから、神経機能の調節に関わっていると予想されていたにもかかわらず、実体の解明は遅れていた。最近になっていくつか新しい事実が明らかにされ、神経機能へのアプローチに光がみえてきた。(a)記憶や学習の分子機構として注目されているシナプス伝達の長期増強(long-term potentiation, LTP)の促進にガングリオシドが働いているのではないかとの最初の報告が Seifertらによってなされた(1985)。その後それを支持あるいは否定する意見があったが、加藤ら(山形大医)と安藤ら(老人研)の共同研究によって、明確なLTP促進作用が認められた(文献3)(図1)。(b)コリン性ニューロンに特異的に存在するガングリオシドChol-1aが安藤ら(1992)によって構造決定がなされたのはコリン性神経作用への特定のガングリオシドが関わっていることを示す点で意義が大きい。Chol-1aの関わる分子機構が解析されつつある。(c)ガングリオシドの合成酵素をノックアウトしてガングリオシドの機能を調べる研究が始まっている。古川鋼一ら(文献4)はGM2ノックアウトマウスの作製に成功し、何らかの神経障害の特定が期待されている。
図

図 ガングリオシドGQ1bの長期増強効果(文献3)
海馬CA1ニューロン上のシナプスは低カルシウム下においては
頻回刺激(Tentanic Stimulus, T)で長期増強がみられないが、(A)、
GQ1bとインキュベーションすると著しい長期増強が形成される(B)。




3.神経疾患と治療の可能性
 ニューロンが脱落する変性疾患の代表としてのアルツハイマー病に、ガングリオシドが有効に作用するのではないかとの考えから治療が行われている(文献5)。パーキンソン病のモデル動物のテストではかなりの成果が得られている。
安藤 進 (東京都老人総合研究所・生体膜部門)
References (1) Mutoh T, Tokuda A, Miyadai T, Hamaguchi M, Fujiki N : Ganglioside GM1 binds to the Trk protein and regulates receptor function. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 5087-5091, 1995
(2) Kozireski-Chuback D, Wu G, Ledeen RW : Upregulation of nuclear GM1 accompanies axon-like, but not dendrite-like, outgrowth in NG108-15 cells. J. Neurosci. Res. 55, 107-118, 1999
(3) Furuse H, Waki H, Kaneko K, Fujii S, Miura M, Sasaki H, Ito K,Kato H, Ando S : Effect of the mono- and tetra-sialogangliosides, GM1 and GQ1b, on long-term potentiation in the CA1 hippocampal neurons of the guinea pig. Exp. Brain Res. 123, 307-314, 1998
(4) Takamiya K, Yamamoto A, Furukawa K, Yamashiro S, Shin M, Okada M, Fukumoto S, Haraguchi M, Takeda N, Fujimura K, Sakae M, Kishikawa M, Shiku H, Furukawa K, Aizawa S : Mice with disrupted GM2/GD2 synthase gene lack complex gangliosides but exhibit only subtle defects in their nervous system. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10662-10667, 1996
(5) Svennerholm L, Life Sci., 55, 2125, 1994
(6) Schneider JS et al, J. Neurosci. Res, 42, 117-123, 1995
1999年 6月 15日

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