Glycolipid
English












糖脂質をmimicするペプチド

  1990年、ScottとSmithは、6merのランダムペプチドをファージ表面タンパクに発現させたファージディスプレイペプチドライブラリーの作成を報告した(1)。これは、モノクローナル抗体が認識する抗原部位の決定、あるいはレセプターに結合性をもつペプチドの簡便な探索法として開発された。我々は、"抗体に特異的に結合するペプチドは、抗原構造を模倣している"という考え(分子模倣:molecular mimicry)から、糖鎖を認識する抗体とファージペプチドライブラリーを用いて、糖鎖を模倣するペプチド(我々はこれを糖鎖レプリカペプチド、Glyco-replica peptideと呼んでいる)のクローニングを進めている(2,3)。

 WesterinkらはNeisseria miningitidisの夾膜多糖を構成する糖鎖の一つである、α2-9シアル酸に対する抗体とファージペプチドライブラリーを用いてクローニングして得たトリペプチドYRY(Tyr-Arg-Tyr)がα2-9シアル酸および、ルイスY(LeY)のFucα1-3GlcNAc構造を模倣することを見出した(4)。さらに、YRYを免疫したマウスの抗血清がLeYおよびHIVの糖タンパク(gp120)と交叉反応し、HIV感染を中和する事を見出した。この結果は、糖鎖レプリカペプチドが、細菌・ウイルス感染や癌に対する免疫療法に、非常に有用であることを示している。

 我々は最近、肝臓への高い転移性を示すマウス悪性リンパ腫細胞(RAW117-H10)の細胞表面にあるガングリオシドGD1αがH10細胞と肝類洞内皮細胞との接着に関与している事を明らかにした。ファージペプチドライブラリーを用いて作成したGD1αレプリカペプチドはH10細胞の内皮細胞への接着を抑えると共に、肺、脾臓および肝臓への転移を抑制した(3)。また、抗パラグロボシド(nLc4Cer)抗体を用いて作成したnLc4Cerレプリカペプチドはレクチン結合性を示すと共に、nLc4Cerに対するβガラクトシダーゼの作用を調節する事も明らかになった(2)。

 以上のように、糖鎖レプリカペプチドは糖鎖構造だけでなく、糖鎖の機能をも模倣することが示された。現在までに幾つかの糖鎖レプリカペプチドがクローニングされているが、本研究分野は始まったばかりであり、今後の発展が大いに期待される。
Figure
標的分子である抗糖脂質モノクローナル抗体をプラスチックプレート等に固相化した後、ファージペプチドライブラリーを反応させた。洗浄後、抗体に結合したファージを酸で溶出し、宿主大腸菌に感染させ、増幅させた。選別された個々のファージクローンに発現しているペプチドの配列をDNA解析から決定した。
Figure
石川 大、瀧 孝雄(大塚製薬(株)細胞工学研究所)
References(1) Scott, JK, Smith, GP, Science, 249, 386-390, 1990
(2) Taki, T, Ishikawa, D, Haamasaki, H, Handa, S, FEBS Lett. 418, 219-223, 1997
(3) Ishikawa, D, Kikkawa, H, Ogino, K, Hirabayashi, Y, Oku, N, Taki, T, FEBS Lett. 441, 20-24, 1998
(4) Agadjanyan, M, Luo, P, Westerink, MA et al. Nature Biotech. 15, 547-551, 1997
1999年 3月 15日

GlycoscienceNow INDEXトップページへ戻る