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デンプン分解酵素/遺伝子群/発現制御

  我々が種子を利用する場合、次世代の植物体を得ることと、食糧とすることが主に挙げられる。人類が消費する食物のうちの約70%が種子(穀物と豆)の貯蔵物質に由来するといわれている。より良い種子の利用には、その主成分であるデンプンについて、分子レベルでの理解が必要となる。ここでは穀物種子発芽におけるデンプン分解機構について解説する。

 イネなどのデンプン性種子は解剖学的に胚と胚乳組織に大別される(図1)。種子デンプンはこの胚乳組織の主要な貯蔵物質である。デンプンは、グルコースポリマーであるアミロースとアミロペクチンからなっている。アミロースが、α-1,4-結合からなる枝分かれのないグルコース直鎖であるのに対し、アミロペクチンはα-1,6-結合による多くの枝分かれからなる。種子貯蔵デンプンの分解は、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、枝切り酵素、α-グルコシダーゼなどの加水分解酵素によって行われる。他の組織においては、ホスフォリラーゼのような加リン酸分解が重要な場合もある。胚盤上皮細胞は胚盤の最外郭に位置する単層細胞組織であり、繊維状組織を介して胚乳のデンプン貯蔵細胞に面している。糊粉層(アリューロン層)細胞は、胚乳を被う一層または数層からなる細胞組織である。これら細胞群では、胚において合成され、拡散してきたジベレリンによってα-アミラーゼの転写活性が促進され、胚乳組織中にα-アミラーゼを放出する。これにより、貯蔵デンプン顆粒内のα-1,4-グルコシド結合がランダムに分解され可溶性デンプンが産生される。β-アミラーゼはデンプンの非還元末端からマルトース単位でα-1,4-グルコシド結合を切断する。枝切り酵素はアミロペクチンのα-1,6-グルコシド結合のみを加水分解する。α-グルコシダーゼ(マルターゼ)はデンプンの非還元末端からグルコース単位でα-1,4-グルコシド結合を切断し、マルトースを効率よく分解する。

 イネ、ムギ類における、α-アミラーゼの発現様式が同じであるのに対し、他の分解酵素においては異なっている。イネのβ-アミラーゼは、発芽時に糊粉細胞で合成されるのに対し、ムギ類では、既に乾燥種子胚乳中に存在している。枝切り酵素とα-グルコシダーゼは、イネでは、発芽時に新たに合成されるのに対し、ムギ類では、既に乾燥種子胚乳中に存在している。

 イネは、低酸素(嫌気)条件下においても発芽が可能である。これは、アルコール発酵のような嫌気呼吸活性が高いことが理由の1つであるが、それとともにその前駆物質となるグルコースの供給、すなわちデンプン分解酵素であるα-アミラーゼの合成が低酸素条件下でも可能であることが示されている。
グルコース等のヘキソース、またはマルトース等の二糖に変換された炭水化物は、発芽のエネルギー源として、さらに、シュートや根に転流されてその成長に利用される。これらの糖は解糖系TCA回路によるエネルギー産生、また、細胞壁の合成やデンプンの蓄積、その他各種の生体物質の前駆体となる。

大槻茂男、山口淳二
(名古屋大学生物分子応答研究センター・
大学院生命農学研究科)
References (1) JD, Bewley, M, Black : SEEDS, physiology of development and germination. Plenum Press, New York, 1985
(2) J, Yamaguchi J, S, Itoh, T, Saitoh, A, Ikeda, T, Tashiro, Y, Nagato : Characterization of β-amylase and its deficiency in various rice cultivars. Theor. Appl. Genet. 98, 32-38, 1999
(3) L, Guglielminetti, J. Yamaguchi, P, Perata, A, Alpi : Amylolytic activities in cereal seed under aerobic and anaerobic conditions. Plant Physiol. 109, 1069-1076 1995
2001年 3月 15日

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