シグレック(Siglecs, sialic acid-binding immunoglobulin superfamily lectins)
シグレックはシアル酸含有糖鎖を認識するレクチン群であり、免疫グロブリン超分子族に属する。当初シアロアドヘシン/シグレック1、CD22/シグレック2、CD33/シグレック3、ミエリン付随糖タンパク質(myelin-associated glycoproteins, MAG)/シグレック4がメンバーとして認識されたが、多数の新たなメンバーが近年になって同定された。ヒトには11種のシグレックと1種のシグレック様分子が存在する(図参照)。フグのゲノムにMAG様の遺伝子が存在することから、シグレックの起原は脊椎動物の出現に先立つか、あるいは期を一にするものと考えられる。
構造
シグレックは1型膜貫通タンパク質であり、N末端Vセット免疫グロブリン様領域、1〜16個のC2セット免疫グロブリン様領域、膜貫通領域と細胞内領域から構成される(図参照)。N末端の第1免疫グロブリン様領域がシアル酸の認識に最も重要であり、この領域にはいくつかの高度に保存されたアミノ酸残基、すなわちβストランドF上のアルギニン残基、2つの芳香族アミノ酸残基(一つはN末端近傍、もう一つはアルギニン残基の下流に存在)、および3つのシステイン残基が存在する(これらシステイン残基の一つは隣接する第2免疫グロブリン様領域に存在するシステイン残基とジスルフィド結合を形成する)。前述のアルギニン残基はシアル酸のカルボキシル基と塩橋を形成するため、この残基の突然変異はシアル酸認識能の喪失につながる。
CD33様シグレック
シアロアドヘシン、CD22、およびMAGを除く全てのシグレックはCD33様シグレックに分類される。CD33様シグレックの遺伝子は相互に高い配列相似性を示すのみならず、そのほとんどがある染色体上の一定の領域に局在している(シグレック遺伝子集合体)。ヒトにおいてはこの集合体は第19染色体のq腕上に、ネズミにおいては第7染色体上に存在する。ヒトのシグレック集合体が7つのシグレック遺伝子と無数のシグレック様偽遺伝子を含むのに対し、ネズミのシグレック集合体には4つのシグレック遺伝子と2つのシグレック様偽遺伝子のみが見いだされる。この事実はCD33様シグレックの原型が齧歯類と霊長類の共通祖先(推定1億年前)においてすでに確立されていたこと、およびこれらの原型が系統・種によって異なる運命を辿ったことを示唆する。
発現分布
シアロアドヘシンはマクロファージに、CD22はB細胞に、MAGはミエリン鞘形成細胞に発現されている(図参照)。CD33類似シグレックの多くは先天性免疫に関与する細胞、すなわち顆粒細胞、単球・マクロファージ、およびNK細胞に発現されている(図参照)。全く同一の発現パターンを示すシグレックが存在しないことから、それぞれのシグレックは固有の機能を果たしているものと考えられる。
生物学的機能
動物モデル(ノックアウト動物)を用いた研究からいくつかのシグレックの生物学的機能が解明された。例えばCD22はB細胞活性の負の制御に関与し、MAGはミエリン鞘の構造維持に貢献する。他のシグレック欠損動物モデルの開発・研究は現在活発に進められており、結果の公表が待たれる。
シグレックの多くはシグナル伝達分子としての機能を有する。シグレックによるシアル酸認識とシグナル伝達の関連を示した研究がいくつか公表されているが、作用機構の詳細に関しては未だ不明の点が多い。
安形高志
(カリフォルニア大学サンディエゴ校)
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2003年 1月22日