糖鎖研究におけるバイオインフォマティクスの活用:Glycoinformaticsへ
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生命の設計図であるゲノム配列の膨大なデータを解析するため、バイオインフォマティクス(生命情報学)の分野が,近年非常に進歩した。遺伝子にコードされない情報分子である糖鎖の機能を体系的に理解するためには、様々な糖鎖、糖鎖の合成と分解に関連するタンパク質遺伝子、および糖鎖と相互作用する分子等の基本データを集めてデータベースを作り、有用な情報を取り出し解析する必要がある。このような考えの下で、糖鎖科学分野においても、国際的にデータベースが作成されている。研究者はデータベースの情報を閲覧・検索するだけでなく,バイオインフォマティクスの統合論的なアプローチを用いることによって、分類や分子進化(糖鎖遺伝子の分子進化 参照)、遺伝病との関連性などの情報を取り出し、本来の研究に生かしていくことが可能である。さらにそのようなアプローチは、新規物質や、複合糖質の未知の性質および変化の予測と発見にも繋がることで、糖鎖科学分野の飛躍的な発展に通じると期待される。現在公開されている、糖鎖に重点をおくデータベースをここで幾つか取り上げ、特色と活用例を紹介する。 糖鎖構造データベース Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)/GLYCAN では、糖鎖構造をグラフ表現することにより、構造のホモロジーがスコア化され、類似構造検索が可能である。また代謝経路 (KEGG Pathway)データベースとのリンクにより、糖鎖の生合成および分解反応や関連酵素の情報も得られる。バイオインフォマティクスを用いて、糖鎖の反応経路と糖転移酵素発現データから、生物のもつ糖鎖のレパートリーを予測する試みがなされている(1)。世界最初の糖鎖データベースCarbBank (CCSD, 現在は停止) の集積データも、KEGGを含むいくつかのデータベースから利用できる。LIPIDBANK for Webでは、糖鎖構造から、それを含む糖脂質とその生物活性、遺伝子情報などが検索できる。 糖関連酵素および糖結合タンパク質(レクチン) Carbohydrate-Active enzymes (CAZy) には、グリコシダーゼや糖転移酵素の情報が集約されており、糖結合部位情報によって分類されている。Glycogene Database (GGDB) は、糖転移酵素と糖輸送体を中心とした遺伝子データベースである。これらのデータベースを活用して、糖転移酵素ファミリーの比較から結合モジュールの共通の特徴を抽出し、これをもとに新規遺伝子の予測(in silicoクローニング)がなされている(2)。フランスの3D lectin databaseには、様々な生物由来のレクチンが集約されている。いずれもPDB (protein data bank) などの汎用サイトとリンクして関連情報が得られる。 米国のConsortium for Functional Glycomicsは、糖鎖結合タンパク質が仲介する細胞間シグナルの解明を目標に、Central(糖鎖のマスデータ、レクチン反応性、マウス表現型、臓器分布など)、CBP (糖結合タンパク質), GT (糖転移酵素), Glycan (構造プロファイリング) に分けてデータベースを公開し、マイクロアレイ化した糖鎖や糖鎖遺伝子、および変異動物などのリソースの供給も行っている(3)。 上記以外にも糖鎖分野の研究者にとって有用な公開データベースがあり(4)、その数や相互のリンクも増加しつつある。今後は実験系とバイオインフォマティクスの研究者の連携により、データベースの充実化と計算機による予測を取り入れた研究を推進することがより重要になるだろう。さらに生物を生命分子のネットワークとして捉えるシステム生物学へと発展させることによって、細胞、器官、個体の様々なレベルで糖鎖の関わる複雑な生命現象を解明することが期待される。 |
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図 The understanding of the complex interaction of all levels of biological glycan information | |||||||||||||||||
竹川寛子、小川温子 (お茶の水女子大学院・糖鎖科学研究教育センター) |
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2006年 1月31日 | |||||||||||||||||
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