Japanese












エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼの糖転移活性に重要なアミノ酸領域

エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼのアミノ酸配列

エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼはアスパラギン結合型糖鎖の根元部分に存在するジアセチルキトビオース部分(GlcNAc-GlcNAc)を分解して、糖鎖をタンパク質からエンド型に遊離する酵素である。これまでにアスパラギン結合型糖鎖の糖鎖部分の構造や機能の解析を行うための試薬としてStreptomyces plicatusが生産する酵素 (Endo-H)が最も良く利用されている。Endo-Hのアミノ酸配列については1984年に明ら かにされ、その後、Endo-Hと高い相同性を示すエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼのアミノ酸配列が数種(Endo-F1, Endo-F2, Endo-F3, Endo-Fspなど)報告された。またEndo-Hは同じジアセチルキトビオースに作用する種々のキチナーゼとも類似したアミノ酸配列を有している。Endo-Hの酵素活性に重要なアミノ酸については結晶構造解析などの結果から詳細に検討され、130番目のAspと132番目のGlu(DXE配列)が酵素活性に必須であることが明らかにされた(図1)。Endo-Hタイプ(後述の糖転移活性を持たない)の酵素に全て保存されているDXE配列は132番目のGluがプロトン供与体として作用し、130番目のAspは遷移状態中間体におけるポジティブチャージを安定化させると考えられている(1)。また複合型糖鎖に作用するEndo-F3と高マンノース型糖鎖に特異的に作用するEndo-HやEndo-F1とでは基質認識部位の立体構造が大きく異なっていることも明らかにされている(2)。
図1
Arthrobacter由来のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-A)の糖転移反応

我々はグラム陽性細菌Arthrobacter protophormiaeをオボアルブミン含有培地で培養した場合、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-A)を誘導生産することを見いだした。Endo-Aはアスパラギン結合型糖鎖の中でマンノースのみから成る高マンノース型糖鎖には作用するが、高等動物などに広く存在する複合型糖鎖には作用しない。本酵素を培養液から精製してその諸性質を解析している際に、 Man6GlcNAc2Asn-dansylを基質に用いる酵素反応液中にGlcやGlcNAcなどの単糖を添加すると見かけ上の酵素活性(dansyl-Asn-GlcNAcの遊離量)が上昇することがわかった。さらに解析の結果、Endo-Aの見かけ上の酵素活性の上昇は、酵素反応生産物であるGlcNAc-Asnに高マンノース型糖鎖が付加する糖転移活性によるものであることがわかった(3)。Endo-Aはグルコースやマンノースなどの単糖のみならず、配糖体や糖ペプチド、糖タンパクにも糖鎖を転移することができるためにネオ複合糖質の合成や糖鎖の生理的機能の研究に非常に有用な酵素である(4)。
Endo-Aの糖転移活性に重要なアミノ酸の解析

精製したEndo-Aの部分アミノ酸配列を決定し、その配列をもとにプローブを作成して Endo-A遺伝子を単離した。精製酵素のN-末端のアミノ酸配列と比較してEndo-Aは24個のシグナルペプチドと621個の成熟タンパク質から成ることがわかった(5)。Endo-Aは これまで報告されていたEndo-Hなどの糖転移活性を示さない酵素類とはホモロジーが 全く認められない。そこでEndo-Aの酵素活性に重要なアミノ酸を特定する目的で、PCRを用いてランダムにEndo-A遺伝子に変異を生じさせ、酵素活性が変化する変異体の取得を試みた。得られた変異体の解析結果から、いくつかのアミノ酸がEndo-Aの酵素活性に重要であることを明らかにした。特に興味深いのは216番目のトリプトファンをアルギニンやリジンなどのアミノ酸に変異させたところ、加水分解活性には影響がないが、特異的に糖転移活性のみが消失することがわかった(6)(図2)。今のところ、これらのアミノ酸がどのようにEndo-Aの酵素活性とりわけ糖転移活性に関与しているかは不明であるが、X線などを用いた立体構造解析などからEndo-Aの糖転移活性のメカニズムや基質の認識機構などが明らかにされていくことが期待される。
図2
Endo-Aホモログタンパクはバクテリアからヒトまで広く生物に存在する

近年のゲノムプロジェクトの進展に伴い、Endo-Aホモログタンパクは原核生物のみ ならず高等生物にも広く存在していることが明らかになってきた。山本らはカビのMucor hiemalisから複合型糖鎖に作用するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-M)を見いだし、Endo-MがEndo-Aと同様に糖転移活性を示すことを報告している(4)。本酵素のアミノ酸配列が最近になって報告されたが、Endo-Aと高い相同性を示すことが明らかになった(6)。またグラム陽性細菌Bacillus haroduransやグラム陰性細菌Lactococcus lactisのゲノムプロジェクトからもEndo-Aホモログタンパクの存在が報告された。引き続いて真核多細胞生物である線虫(Caenorhabditis elegans)、植物(Arabidopsis thaliana)、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、さらにヒト(Homo sapiens)にいたるまでEndo-Aホモログタンパクは存在することがわかった (図3)。しかしながら高等真核生物のこれらのEndo-Aホモログは全て仮想タンパク質である。また興味深いことに出芽酵母や分裂酵母にはEndo-Aホモログ遺伝子は存在しない。先に述べたEndo-A活性及び糖転移活性に重要な173番目のGluや216番目のTrpなどのアミノ酸はこれらのホモログタンパクで完全に保存されていることがわかり、改めてこれらのアミノ酸の重要性を確認することができた。今後はこれらのEndo-Aホモログタンパクが実際にエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ活性、とりわけ糖転移活性を示すのか、さらに生体内において例えばERにおける糖タンパク質の変性タンパク質の分解への関与などが明らかにされることを期待したい。
図3
竹川 薫、藤田清貴 (香川大学農学部)
References (1) Rao V, Cui T, Guan C, Van Roey P : Mutations of endo-β-N-acetylglucosaminidase H active site residues Asp130 and Glu132: Activities and conformations. Protein Sci. 8, 2338-2346, 1999
(2) Waddling CA, Plummer TH Jr., Tarentino AL, Van Roey P : Structural basis for the substrate specificity of endo-β-N-acetylglucosaminidase F3. Biochemistry 39, 7878-7885, 2000
(3) Takegawa K, Yamaguchi S, Kondo A, Iwamoto H, Nakoshi M, Kato I, Iwahara S : Transglycosylation activity of endo-β-N-acetylglucosaminidase from Arthrobacter protophormiae. Biochem. Int. 24, 849-855, 1991
(4) Yamamoto K, Takegawa K : Transglycosylation activity of microbial endoglycosidases and its application. Trends Glycosci. Glycotechnol. 48, 339-354, 1997.
(5) Takegawa K, Yamabe K, Fujita K, Tabuchi M, Mita M, Izu H, Waranabe A, Asada Y, Sano M, Kondo A, Kato I, Iwahara S : Cloning, sequencing, and expression of Arthrobacter protophormiae endo-β-N-acetylglucosaminidase in Escherichi coli. Arch. Biochem. Biophys. 338, 22-28, 1997
(6) Fujita K, Takegawa K : Tryptophan-216 is essential for the transglycosylation activity of endo-β-N-acetylglucosaminidase A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 283, 680-686, 2001
2001年9月15日

GlycoscienceNow INDEX Return to Top Page