GALECTIN
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β-1,4-ガラクトース転移酵素ファミリー

  生物活性を有する糖鎖抗原の多くは、糖鎖側鎖に見られるGalβ1-->3/4GlcNAcという基本構造に発現している。β-ガラクトース転移酵素(β-GalT)は、UDP-GalからGalを糖鎖末端のGlcNAc残基に転移することでこの二糖構造を作り出すが、最近になってこれまでに知られていないβ-1,4-GalTやβ-1,3-GalTをコードする遺伝子が次々にクローニングされ、これらもそれぞれファミリーを形成していることが明らかになってきた。しかし、β-1,4-GalTとβ-1,3-GalTは、基質として糖供与体や糖受容体を共有するにもかかわらず、これらの糖転移酵素間では相同性領域は見出されていない。本稿では、生体内にその酵素活性が広く分布するβ-1,4-GalTファミリーに焦点をあて解説する。

 β-1,4-GalT遺伝子は、1986年にウシ腎臓と乳腺のcDNAライブラリーからクローニングされた(β-1,4-GalT I)。その後、この遺伝子のホモローグが単離されなかったことから、β-1,4-GalTは生体内には一つしか存在せず、それが糖タンパク質糖鎖に見られる全てのβ-1,4-結合したガラクトースの転移を担っていると考えられてきた。ところが、β-1,4-GalT I遺伝子破壊マウスの各組織や血清の糖タンパク質には、糖鎖末端にβ-1,4-結合したGal残基が見出され、また組織ホモジェネート中にβ-1,4-GalT活性が残存することなどから、生体には別のβ-1,4-GalTが存在することが示唆された。

 新規のヒトβ-1,4-GalT遺伝子は、糖転移酵素間に見られるアミノ酸配列のホモロジー(1)や遺伝子バンクに登録された遺伝子断片の配列情報(2, 3)を利用してクローニングされた。それらはβ-1,4-GalT Iとアミノ酸配列で55, 44, 41, 37, 33%のホモロジーを持っていたので、本稿ではホモロジーの順番に従ってβ-1,4-GalT II, III, IV, V, VIと記載する。しかし、本稿のβ-1,4-GalT Vは文献(1)のβ-1,4-GalT IVに相当するので注意されたい。ヒトβ-1,4-GalTファミリーのうち、β-1,4-GalT Iはマウスとニワトリ、β-1,4-GalT IIはニワトリからもそのcDNAが単離されている。ごく最近、ラクトシルセラミド合成酵素がラット脳から精製され、その部分アミノ酸配列をもとに遺伝子が単離された(4)。この遺伝子から推定されるアミノ酸配列は、ヒトβ-1,4-GalT VIとほぼ同一であった。

 図1にβ-1,4-GalTファミリーに属する糖転移酵素のアミノ酸配列の比較を示すが、いずれも活性部位であるC末端領域に高い相同性が見られる。特にDVD, FGGVやGWGEDDD配列の近傍は、カタツムリからその遺伝子がクローニングされたβ-1,4-N-アセチルグルコサミン転移酵素(β-1,4-GlcNAcT)にも保存されており、β-1,4-結合で糖を転移する酵素に共通する糖受容体、あるいは糖供与体の一部(UDP)と結合する領域である可能性が考えられる。また、図1に示す4つのシステイン残基の相対的位置も、このファミリーに属するすべての糖転移酵素でよく保存されていた。

図

図1 β-1,4-Gal T ファミリー糖転移酵素におけるアミノ酸配列の相同性
   TM, 膜貫通領域; C, システイン残基; h, human (ヒト); s, snail (カタツムリ)

 β-1,4-GalT間に見られるこうしたホモロジーにもかかわらず、基質特異性は各酵素で異なっており、I, II, Vは糖タンパク質糖鎖、IIIはラクト-N-ネオテトラオシルセラミド、VIはラクトシルセラミドの生合成に関わっているようである。しかし、in vitroにおける各酵素の基質特異性よりも、各酵素の組織での発現量や細胞内での局在性が実際の酵素の機能に重要であると考えられる。

 ヒト各臓器(心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、筋肉、腎臓、膵臓)におけるβ-1,4-GalT遺伝子の発現は、β-1,4-GalT I, III, IV, Vはほとんどすべての臓器で、IIは心臓、筋肉、膵臓で、VIは脳にのみ発現している。また、β-1,4-GalT Iはα-ラクトアルブミン存在下でGlcにGalを転移しラクトースの合成に関与している。マウス乳腺ではβ-1,4-GalT I遺伝子が主に発現しており、他のβ-1,4-GalT遺伝子はほとんど発現していない。

 新しく単離されたβ-1,4-GalTファミリーの生体内での機能の研究は、個々の酵素の基質特異性の解析も含めてまだスタートラインに立ったばかりであり、今後の研究の発展が期待される。
佐藤 武史(東京都老人総合研究所・生体情報部門)
References(1) Sato, T, Furukawa, K, Bakker, H, Van den Eijnden, D H, Van Die, I : Molecular cloning of a human cDNA encoding a novel beta-1,4- galactosyltransferase with 37% identity to mammalian UDP-Gal:GlcNAc beta-1,4-galactosyltransferase. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95, 472-477,1998.
(2) Almeida, R, Amado, M, David, L, Levery, SB, Holmes, E, Merkx, G, Van Kessel, AG, Rygaard, E, Hassan, H, Bennett, E, Clausen, H: A family of human beta4-galactosyltransferases : Cloning and expression of two novel UDP- galactose:beta-N-acetylglucosamine beta1,4-galactosyltransferases, beta4Gal-T2 and beta4Gal-T3. J. Biol. Chem. 272, 31979-31991, 1997.
(3) Lo, N- W, Shaper, J H, Pevsner, J, Shaper, N L : The expanding beta4-galactosyltransferase gene family: message from the databanks. Glycobiology, 8, 517-526, 1998.
(4) Nomura, T, Takizawa, M, Aoki, J, Arai, H, Inoue, K, Wakisaka, E, Yoshizuka, N, Imokawa, G, Dohmae, N, Takio, K, Hattori, M, Matsuo, N : Purification, cDNA cloning, and expression of UDP-Gal: glucosylceramide beta-1,4-galactosyltransferase from rat brain. J. Biol. Chem. 273,13570-13577, 1998.
1998年 9月 15日

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