Glycoprotein
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フコース転移酵素ファミリー

 現在までにクローニングされている2つのα1,2-,および5つのα1,3-フコース転移酵素

 現在までに、2種類のα1,2-フコース転移酵素(α1,2FUT)、6種類のα1,3-フコース転移酵素(α1,3FUT)、1種類のa1,6フコース転移酵素(a1,6FUT)ヒト遺伝子がクローニングされている。それらの命名法、染色体位置、ルイス抗原の合成能を、表1にまとめてある。
図
 FUT1(H 酵素) と FUT2(Se 酵素) は、α1,2 FUTであり、いずれも1型糖鎖(Galβ1, 3GlcNAc)および2型糖鎖(Galβ1,4GlcNAc)のガラクトース残基にα1,2結合でフコース(Fuc)を転移することにより、H1型糖鎖、H2型糖鎖をそれぞれ合成する(図1、図2)。FUT1(H)は、赤血球上のABO血液型抗原のH抗原(O型抗原)を合成するのに必須 であり、FUT2(Se)は、唾液中のH抗原を合成するのに必須であり、分泌型か否かを決定している。きわめて稀ではあるが、FUT1(H)遺伝子の変異体が散在的に存在し、それらの個体をボンベイ個体あるいはパラボンベイ個体とよび、彼らは赤血球上にABH抗原を持たないか、もしくは微量のABH抗原しか持たない(1)。赤血球上のABH抗原の量は、FUT1(H)酵素の活性のみにより決定されており、ボンベイやパラボンベイ個体では、H酵素が点変異により完全に失活しているか、あるいは活性が減少している。ヒトは、唾液中のABH抗原の有無により、分泌型個体(secretor)か非分泌型個体(nonsecretor)か、の2群に分類される。非分泌型個体は、不活化された FUT2(Se)遺伝子のホモ接合体であることがわかった。 FUT2(Se)遺伝子の不活化は、点変異かもしくはクロスオーバーのためであり、日本人に見出された不活化 FUT2(Se)遺伝子は、sej対立遺伝子と名付けられ、日本人では約40%の頻度で分布しているが、これはまたアジア人種に広く分布していることもわかった。このように、約16%の日本人が、sej/sejの遺伝子型を持つ非分泌型個体である(1-3)。H酵素とSe酵素の詳細な組織分布は、まだよくわかっていない。しかし、ある種の消化管組織(例えば、大腸 、胃など)の上皮細胞では、両方が発現していることがわかっている。

図1
図


 FUT3(Fuc-TIII)は、もともと「ルイス酵素(Le酵素)」とよばれていたα1,3/4FUTであり、赤血球上のルイス式血液型抗原の合成に必須である(図1、図2)(4, 5)。ルイス式血液型の赤血球の表現型は、4型に分類される。すなわち、Le(a+b-), Le(a-b+), Le(a+b+), Le(a-b-)である。約10%の日本人は、遺伝的にLe酵素を欠損しており、赤血球の表現型はLe(a-b-)である(5)。彼らは、不活化されたFUT3(Lewis)遺伝子(le遺伝子)のホモ接合体(le/le遺伝子型)である(5)。点変異により不活化された3種類のle遺伝子が、日本人に見つかっている(3)。Le(a+b-)の個体は、FUT2 (Se)酵素を完全欠損する非分泌型個体であるが、活性型の FUT3 (Le)を持つ。Le (a-b+) の個体は、 FUT2(Se)酵素、FUT3 (Le)酵素ともに活性型であり、分泌型個体である。Le(a+b+) の個体は、活性型のFUT3(Le)酵素と、活性がきわめて弱くなったFUT2(Se)酵素を持つ。sej酵素は、部分的に不活化された酵素であり、したがって日本人の多くの非分泌型個体は、 Le(a+b+)の表現型を示すことになる。FUT3は、全身諸臓器に広く分布しており、乳腺、肺、子宮などの他、各種の消化管組織の上皮細胞に発現している。FUT3は、 α1,3 とα1,4の両方のフコース転移酵素活性を示す。赤血球上のみならず生体内における諸臓器において1型ルイス抗原(Lea, Leb, sLea 抗原)を合成しうる唯一の酵素である(3, 6)。le/le遺伝子型を持つLe(a-b-) の個体は、全身諸臓器においてLea, Leb, sLeaを合成できない。le/le遺伝子型の個体が、癌になっても決してCA19-9値(最も有名な腫瘍マーカー)が陽性となることはなく、α1,4fucosylationを欠くCA19-9の前駆体であるDU-PAN-2値がしばしば陽性となる(3)。
  FUT4は、ミエロイド型α1,3FUTとよばれた酵素であり、 2型糖鎖のルイス抗原(Lex, Ley, sLex)を合成できる。但し、sLex合成活性はきわめて弱い。 FUT4はミエロイド系の組織のみならず、きわめて幅広い組織分布を示す(7)。FUT4を欠損するノックアウトマウスは、外見上、きわめて正常である。
  FUT5もLex, Ley, sLexを合成する。しかし、その組織分布はよくわかっておらず、FUT5を発現している組織はまだ見つかっていない。
  FUT6 もまた3種類の2型ルイス抗原(Lex, Ley, sLex)を合成する。その比活性は5種類のα1,3FUTsのなかで最も強い(8)。多くの組織は、redundantに3種類のα1,3FUT,すなわちFUT3, FUT4, FUT6を発現している。
  FUT7 は最も厳しい基質特異性を発揮する。sLexしか合成しない。また組織分布もきわめて限局されており、白血球系の細胞やhigh endothelial venule(HEV)細胞などにしか発現していない(9).
ヒト組織において、セレクチンのリガンドとしてよく知られるsLex 抗原は、胃腸 由来の癌細胞においてはFUT3とFUT6が主にsLexを合成し(10)、ミエロイド系の細胞においてはFUT7がsLexを合成している。
最も新しく発見されたFUT9は、ヒト染色体6q16に存在し、Lex, Ley合成活性が非常に強い(11_15)。主に、神経系細胞、腎尿細管上皮細胞、胃粘膜上皮、白血球で発現している(11、12、15)。ポリラクトサミン鎖を基質としてフコース転移活性を調べると、FUT9は非還元末端のラクトサミン単位のGlcNAcにフコースを転移する活性がきわめて強く、他の酵素(FUT3, FUT4, FUT5, FUT6)は逆に内部のラクトサミン単位のGlcNAcに転移する活性が強い(図3)(14、15)。FUT9が真のLex (CD15)合成酵素であり、FUT4やその他の酵素はCD65wを合成する酵素である。
図
マーク・K・成松 (産業技術綜合研究所・分子細胞工学研究部門)
References(1)Kaneko M, Nishihara S, Shinya N, Kudo T, Iwasaki H, Seno T, Okubo Y, Narimatsu H, Blood, 90, 839-849, 1997
(2) Kudo, T, Iwasaki, H, Nishihara, S, Shinya, N, Ando, T, Narimatsu, I, Narimatsu, H, J. Biol. Chem. 271, 9830-9837, 1996
(3)Narimatsu H, Iwasaki H, Nakayama F, Ikehara Y, Kudo T, Nishihara S, Sugano K, Okura H, Fujita S, Hirohashi S, Cancer Res. 58, 512-518,1998
(4) Nishihara, S, Yazawa, S, Iwasaki, H, Nakazato, M, Kudo, T, Ando, T, Narimatsu, H, Biochem. Biophys. Res. Commun. 196, 624-631, 1993
(5) Nishihara, S, Narimatsu, H, Iwasaki, H, Yazawa, S, Akamatsu, S, Ando, T, Seno, T, Narimatsu, I, J. Biol. Chem. 269, 29271-29278, 1994
(6) Narimatsu, H, Iwasaki, H, Nishihara, S, Kimura, H, Kudo, T, Yamauchi, Y, Hirohashi, S, Cancer Res. 56, 330-338, 1996
(7) Gersten, K M, Natsuka, S, Trinchera, M, Petryniak, B, Kelly, R J, Hiraiwa, N, Jenkins, N A, Gilbert, D J, Copeland, N G, Lowe, J B, J. Biol. Chem. 270, 25074-25056, 1995
(8) Kimura, H, Shinya, N, Nishihara, S, Kaneko, M, Irimura, T, Narimatsu, H, Biochem. Biophys. Res. Commun. 237, 131-137, 1997
(9) Maly, P, Thall, A D, Petryniak, B, Rogers, C E, Smith, P L, Marks, R M, Kelly, R J, Gersten, K M, Cheng, G, Saunders, T L, Camper, S A, Camphausen, R T, Sullivan, F X, Isogai, Y, Hindsgaul, O, von Andrian, U H, Lowe, J B, Cell, 86, 643-653, 1996
(10) Kudo, T, Ikehara, Y, Togayachi, A, Morozumi, K, Watanabe, M, Nakamura, M, Nishihara, S, Narimatsu, H, Lab. Inv. 78, 797-811, 1998
(11) Kudo T, Ikehara Y, Togayachi A, Kaneko M, Hiraga T, Sasaki K, Narimatsu H, J. Biol. Chem. 273, 26729-26738, 1998
(12) Kaneko M, Kudo T, Iwasaki H, IkeharaY , Nishihara S, Nakagawa S, Sasaki K, Shiina T, Inoko H, Saitou N, Narimatsu H, FEBS Lett , 452 (3), 237 - 242, 1999
(13) Kaneko M, Kudo T, Iwasaki H, Shiina T, Inoko H, Kozaki T, Saitou N, Narimatsu H, Cytogenet. Cell Genet, 86, 329-330, 1999
(14) Nishihara S, Iwasaki H, Kaneko M, Tawada A, Ito M, Narimatsu H, FEBS Lett, 462, 289-294, 1999
(15)Nakayama F, Nishihara S, Iwasaki H, Okubo R, Kaneko M, Kudo T, Nakamura M, Karube M, Sasaki K, Narimatsu H, J. Biol. Chem. in press, 2001
2001年 5月 15日;改定

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