Glycolipid
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糖脂質の硫酸化

  硫酸化糖脂質の硫酸基は、ゴルジ膜に局在する硫酸転移酵素の触媒により、硫酸供与体である3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸(PAPS)から付加される。受容体基質によって2種類の硫酸転移酵素が働く。ガラクトシルセラミド(別名セレブロシド)のガラクトースの3位に硫酸基を転移して狭義のスルファチド(ガラクトシルセラミド硫酸、SM4s)を合成するセレブロシド硫酸転移酵素(CST: EC 2.8.2.11)と、HNK-1エピトープを合成する硫酸転移酵素である(図1)。前者はガラクトシルセラミド以外に、ラクトシルセラミドやガラクトシルアルキルアシルグリセロールにも働き、それぞれラクトシルセラミド硫酸(SM3)、セミノリピド(SM4g)を生合成する。正常組織では、スルファチドは脳ミエリン鞘の主要構成脂質であり、腎臓の尿細管細胞や消化管上皮細胞にも分布している。セミノリピドはミエリン形成時期の脳や精子に豊富に存在する。いったん合成された脳のスルファチドと精子のセミノリピドの代謝回転は、腎臓のスルファチドと比べて非常に遅い。HNK-1エピトープを有する糖脂質としては、SGGL-1(HSO3-3GlcUβ-3Galβ-4GlcNAcβ-3Galβ-4Glcβ-1Cer)とSGGL-2(HSO3-3GlcUβ-3Galβ-4GlcNAcβ-3Galb-4GlcNAcβ-3Galβ-4Glcb-1Cer)が発生時期の中枢神経や馬尾など末梢神経にみられる。硫酸化糖脂質の発現分布が組織特異的であることから、発現部位における生物学的役割が想定されているが、まだ決定的な証拠は得られていない。
図

図1 2種類の糖脂質硫酸転移酵素反応と主要な硫酸化糖脂質の構造
 硫酸化糖脂質の生合成は、脳ではミエリン形成時期、精巣では精子形成時期に活発に行われる。子宮内膜では性周期に合わせて変動する。薬物では、ビタミンKや酪酸の作用で活性化される。また、犬の腎尿細管細胞であるMDCK細胞を高浸透圧下で培養すると活性化される。これらの詳細な分子メカニズムは不明である。肺癌、胃癌、大腸癌、肝癌、卵巣癌、グリオーマ、腎癌などのヒト癌組織において、CSTの活性上昇に伴う硫酸化糖脂質の蓄積がみられる。硫酸化糖脂質は癌細胞自身に発現する。腎癌細胞ではプロテインキナーゼCやチロシンキナーゼが活性化されていて、この細胞内情報伝達系の下流でCST遺伝子の転写が活性化され、その結果としてCST活性が著明に上昇する。癌細胞に発現した硫酸化糖脂質の病理的意義は不明である。

 ヒト腎癌細胞から精製されたCSTは、分子量54,000である。ヒトCSTcDNAの塩基配列から推定される一次構造は、423個のアミノ酸から成るII型膜タンパク質で、N-グリコシド型糖鎖結合部位が2カ所存在する。一次構造上は、他の細胞質局在性の薬物代謝に働く硫酸転移酵素やグリコサミノグリカンの合成に働く硫酸転移酵素とは有意な相同性は見られないが、立体構造上の類似性からPAPS結合モチーフが推定されている。マウスのCSTも423アミノ酸から成り、アミノ酸配列はヒトCSTと84%の相同性を示す。ノザンブロット解析では、ヒトで1.9 kb、マウスで1.8kbの転写物が観察される。マウスでは、腎、脳、精巣、胃、小腸、肝、肺にmRNAの発現がみられる。ヒトのCST遺伝子は22番染色体に存在する。

 進化上、硫酸化糖脂質は後口動物にのみ存在し、最も下等な動物では棘皮動物のウニにみられる。CST遺伝子の祖先遺伝子、あるいはCST遺伝子の進化に伴う獲得形質は今後の重要課題である。
本家 孝一(大阪府立母子保健総合医療センター研究所・代謝部門)
References(1) Ishizuka, I : Chemistry and functional distribution of sulfoglycolipids. Prog. Lipid Res. 36, 245-319 (1997) (review)
(2) Vos, J P, Lopes-Cardozo, M, Gadella, B M : Metabolic and functional aspects of sulfogalactolipids. Biochim. Biophys. Acta 1211, 125-149 (1994) (review)
(3) Honke, K, Tsuda, M, Hirahara, Y, Ishii, A, Makita, A, Wada, Y : Molecular cloning and expression of cDNA encoding human3'-phosphoadenylysulfate: galactosylceramide 3'-sulfotransferase. J. Biol.Chem. 272, 4864-4868 1997
1998年 12月 15日

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