Glycolipid
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糖脂質の局在(カベオラと細胞質)

(Update Issue: 2007年2月1日)  
  糖脂質のほとんどは、細胞膜と細胞内膜構造に存在する。細胞膜上の糖脂質密度は高いが、全体の2/3程度の糖脂質は細胞質内の膜構造であるゴルジ体、エンドソーム、リソソーム、核膜、ER、ミトコンドリアに存在する。糖脂質は、その他の膜構成成分とともに細胞膜とこれらの小器官の間を循環している。ゴルジ体では、糖鎖がひとつずつ付加されて新たな糖脂質が合成され、リソソームでは、糖脂質が、ひとつずつ糖鎖を除かれて分解される。エンドソームではエンドサイトーシスによって細胞膜から細胞内へ取り込まれた糖脂質がゴルジ体もしくはリソソームへと振り分けられる。また、ゴルジ体で合成された糖脂質やエンドサイトーシスで取り込まれた糖脂質の一部はここを通って細胞膜へと戻っていく。細胞の種類にもよるが、細胞膜の糖脂質は、30−40分で半数が循環し、糖脂質組成の恒常性を維持している。膜間の移動は、ほとんどの場合、二層膜構造を維持した小胞を形成して行われる。


 細胞膜上では、多くはraft(筏)と言われる糖脂質とコレステロールに非常に富んだドメイン構造をとって存在する。その細胞外側には、GPIアンカー蛋白質など、細胞間情報伝達分子の受容体が局在し、細胞質側には、srcファミリーキナーゼが結合しており、細胞外から細胞内への情報伝達に関与している。ゴルジ、細胞膜、エンドソーム間の移動では、「筏」が小胞を形成して膜間を移動する。小胞と膜の接合にはアネキシンの一種が関与しているらしい。「筏」は、4℃で1%Triton 100で可溶化されず、低密度であるdetergent insoluble glycolipid-enriched complexes (DIGs、detergent insoluble glycosphingolipid-enriched domainsともいう)という画分に抽出されてくる。また、この画分にはカベオラと呼ばれる構造が含まれる。カベオラは、細胞膜表面の小さな窪み構造(直径〜50nm)で、「筏」と同じく糖脂質とコレステロールに富みGPIアンカー蛋白質、srcファミリーキナーゼ、3量体G蛋白質やRasが局在しており、コレステロールに結合し自己会合するカベオリンというこの構造に特徴的な膜蛋白質によって窪みの構造を形成すると考えられている。エンドサイトーシスがおこる部位の一つである。「筏」はカベオラに取り込まれることによって、受容体分子などがいっそう集積化して情報伝達が効率化されると考えられている。糖脂質は受容体蛋白質やキナーゼと相互作用してその機能を調節している。


 糖脂質は、二層膜の細胞外側に偏在し、細胞内小器官の場合は、その内腔側に局在するというようにそのトポロジーは厳重に保持されている。ただし、多くの糖脂質の合成の最初の段階であるGlcCerを生成するためのセラミドにグルコースを転移する反応は、ゴルジ膜の細胞質側で起こる。糖脂質のその他の糖転移反応は、すべてゴルジ体の内腔側で行われる。


 小腸の上皮細胞や腎上皮細胞など極性のある細胞では、糖脂質がトランスゴルジから輸送されるときに振り分けられて、アピカル膜と基底部膜の領域で糖脂質の分布が異なる。また、アピカル膜と基底部膜を区切っているタイトジャンクションを二層膜の細胞外側の構成成分は自由に移動できないので、両極の異なった糖脂質組成が維持される。


 糖脂質の一部は細胞質に膜構造には依存せずに存在している可能性がある。脳の細胞質可溶化画分には、全体の5%に当たるガングリオシドが存在し、その組成は膜成分のものとよく似ている。いくつかの糖脂質が、細胞内中間径フィラメントの成分であるビメンチンに結合して存在することが示されており、これは糖脂質のリサイクル経路の一部となっている。また、膜から他の膜へ糖脂質を輸送する活性を持つ細胞内の糖脂質輸送蛋白質が見つかっている。
図
東 秀好(三菱化学生命科学研究所・所長研究室)
References(1) Simons, K, Ikonen, E : Functional rafts in cell membranes. Nature 387, 569-572, 1997
(2) Kasahara, K, Watanabe, Y, Yamamoto, T, Sanai, Y : Association of Src family tyrosine kinase Lyn with ganglioside GD3 in rat brain.: Possible regulation of Lyn by glycosphingolipid in caveolae-like domains. J. Biol. Chem. 272, 29947-53, 1997.
(3) Gillard, BK, Thurmon, LT, Marcus, DM : Variable Subcellular Localization of Glycosphingolipids. Glycobiology 3, 57-67, 1993.
(4) 糖鎖の細胞における運命 箱守仙一郎, 永井克孝, 木幡陽 編 pp.71-107, 179-191, 講談社サイエンティフィク, 1993.
1998年 6月 15日

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