Hyaluronan Image Symbol
I はじめに
II ウィルス由来ヒアルロン酸合成酵素cvHasの発見
III グラム陰性菌由来ヒアルロン酸合成酵素pmHasの発見
IV PBCV-1とA型Pasteurella multocidaにおけるヒアルロン酸の生物学的役割の可能性
V 2種類のヒアルロン酸合成酵素
V Pasteurellaヒアルロン酸合成酵素の糖受容体の利用
V pmHasのヒアルロン酸生合成における
分子方向性と様式の解明
V 二重活性をもつPasteurellaヒアルロン酸合成酵素は2つの活性部位を持つ
V Pasteurellaヒアルロン酸合成酵素の推定される膜相互作用部位
VI 結語
 Authors' Profile
Paul L. DeAngelis: Paul L. DeAngelisは経歴を通してグライコバイオロジーを探求しつづけてきた。DeAngelis博士はHarvard大学在学中(B. A. 1984)、宿主の植物が「異物」として認識する病原性真菌性の多糖類の構造を、一連の構造類似体合成や試験により研究した。California大学Irvine校大学院在学中(Ph. D. 1990)には、卵表面の多糖の重要な要素や、精子の接着性タンパク質の重要な残基を決定することにより受精にまつわるいくつかの詳細について明らかにした。Texas大学Medical Branch, GalvestonのPaul Weigel博士の研究室でのポスドク研究(1990-93)では、ヒト病原性細菌Group A Streptococcusから初めてのヒアルロン酸合成酵素を同定した。現在は、Oklahoma大学Oklahoma Health Science Center in Oklahoma Cityで助教授として、各方面における原核生物、真核生物の多糖合成を探求する研究室を指導している。1997-2000年の間の発見に、2つのさらにユニークなヒアルロン酸合成酵素と初めてのコンドロイチン合成酵素の同定がある。DeAngelis博士は、2000年に多糖合成の基礎科学を応用するためにバイオテクノロジー会社Hyalose®を共同設立した。ランの栽培、自然および人間の作った古代の遺物に心をはせること、そしてスキューバダイビングが、生体分子とたわむれていない時の彼の趣味である。
I はじめに
ヒアルロン酸合成酵素:おどろくべき触媒
ヒアルロン酸は多くの生物で合成され、生命にとって必須または非常に重要な役割を担っている。ヒアルロン酸の合成を触媒する酵素は、ヒアルロン酸合成酵素[以下HASと略記]と呼ばれる。HASは効率よく2種類の働きをする糖転移酵素で、以下の反応を触媒する。


「1つの酵素は1つの糖を転移する」という常識と対照的に、HASはN-アセチルグルコサミン [以下GlcNAcと略記] とグルクロン酸 [以下GlcUAと略記] の両方をヒアルロン酸鎖に重合する。In vitroでは毎秒10から100糖の伸長速度が測定された。既知のすべての生物で、ヒアルロン酸ポリマーは合成と同時に細胞の外に分泌または移送され、HAS活性は膜画分に見つかっている。グラム陽性のグループAとCの連鎖球菌と脊椎動物のヒアルロン酸合成酵素は、何十年にもわたって研究されてきたa,b。1997-98年に藻類ウィルスとグラム陰性菌から新たなヒアルロン酸合成酵素が同定され、クローニングされた。

a このシリーズのWeigel の総説を参照。
b このシリーズのSpicerとMcDonaldの総説を参照。


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II ウィルス由来ヒアルロン酸合成酵素cvHasの発見
クロレラウィルスは巨大な二本鎖DNA (330 kb の遺伝子) ウィルスで、ある種のクロレラ様藻類に感染し、世界中の淡水中に見られる(Fig.1)。ウィルスの力価は、池や川の水中では1mlあたり104感染性粒子にも達する。このウィルスは当初、藻類とミドリゾウリムシやヒドラを含む原生動物との共生を研究している研究者によって発見された。藻類細胞は、ゾウリムシやヒドラから隔離されると数時間で溶解することが観察されていた。1981年、Meints、Van Ettenと共同研究者らは電子顕微鏡を用い、単離した藻類細胞には多角形の粒子が存在するが、原生動物に共生する藻類細胞には無いことを明らかにしたParamecium bursaria Chlorella virus (以下PBCV-1と略記) の実験宿主細胞は、原生動物から隔離されたクロレラ様の共生藻類細胞である。感染後3-4時間以内に、宿主細胞は溶解し、約300の新しいウィルス粒子が放出される。しかしながら、天然の宿主は、他のまだ知られていない自立した生物である可能性が大いにある。

Fig. 1. Paramecium bursaria Chlorella virus-1の図
電子顕微鏡像からコンピューターによって再構成によりヒアルロン酸合成酵素、cvHasを持つウィルスを描いた。赤い点は多面体外被の1個のサブユニットの大きさである。ある種の淡水の緑藻類に感染する、この大きい (直径175-190 nm) Phycodnaviridae ウィルスは、多くのタイプの遺伝子を持ち、ウィルスとしては例外的である。ウィルス粒子それ自体ではなく、感染した宿主の藻類細胞のみヒアルロン酸を持つ。(協力:Xiaodong Yan、Tim Baker)
連鎖球菌HAS (spHASまたはHasA) と脊椎動物のHASアイソザイムのタンパク質アミノ酸配列をqueriesとして用いたDNAデータベースの相同性検索によって、PBCV-1遺伝子のopen reading frame の1つであるA98R (GenBank Accession # U42580) がHASである可能性が示唆された(Fig. 2)。このウィルスタンパク質は、そのポリペプチドの中に、連鎖球菌と脊椎動物のHASsと同様の配置で7つの短い配列モチーフを持っていた。興味深いことに、PBCV-1遺伝子は、UDP-GlcUAを合成する機能的なUDP-glucose dehydrogenaseもコードしている。

そのため、このウィルスは、この不可欠なヒアルロン酸前駆体のために宿主細胞を頼る必要がない。1997年、A98R open reading frameはPCRで増幅され、大腸菌発現システムにクローニングされた2。再構成膜をつかったin vitroの糖転移酵素活性の生化学的解析から、新規のHASが発見されたことが明らかとなり、現在、これをcvHASと呼んでいる。cvHASは非常に選択的なGlcNAc転移酵素、GlcUA転移酵素で、類似のUDP・糖を代用しない。興味深いことに、マンガンイオンがHAS活性を最大に活性化する。対照的に、連鎖球菌とほ乳類のHASはマグネシウムイオンを好む。cvHASはin vitroで約104糖からなる (3-6×104 Da) ヒアルロン酸鎖を合成する。

ウィルス感染後早期に、クロレラはcvHASのmRNAと酵素を持っていた2。健康なクロレラ、または単離したウィルス粒子からは酵素は検出されなかった。アグリカンを用いたヒアルロン酸検出試薬を使った蛍光顕微鏡観察では、感染後30分のクロレラの表面にヒアルロン酸が出現したと判断された3。さらなるコントロールとして、特異的なStreptomycesヒアルロニダーゼ消化により蛍光シグナルが消失し、感染した細胞が本当にヒアルロン酸を形成したことが示された。急速凍結割断法による電子顕微鏡観察により、感染したクロレラ細胞では、絡まり合った繊維性の細胞外の網状構造を有することが明らかとなったが、健康な細胞またはヒアルロニダーゼ処理した細胞ではなかった(Fig. 3)2。cvHASの発見は2つの理由から非常に面白い: (i) ウィルスは普通、糖転移酵素をコードせず、むしろ宿主の酵素にウィルスの複合糖質を作らせるというのが一般に考えられている。(ii) ヒアルロン酸はこれまで高等動物とある病原性細菌以外では報告されたことがない。
Fig. 2. いろいろなクラスTヒアルロン酸合成酵素の配列アラインメント
Chlorellaウィルス酵素(PBCV-1のcvHas)はstreptococcal (Group A S. pyogenes spHas)と脊椎動物 (ヒトhHAS2) 酵素に、このMultalin plot(90%共通配列は赤;50%共通配列は緑、Corpet F., Nucl. Acids Res. 16:10881-10890, 1988)に見られるように非常によく似ている。7つの短い配列モチーフが同じようにポリペプチド鎖には位置されていることが明らかである。別の生物からの3種のタイプにこのモチーフが存在することから、これらの領域はHASの構造と機能に重要な役割を演じているのであろう。(協力:Robyn Roth、John Heuser)
Fig. 3. 健全または感染した藻類細胞の電子顕微鏡写真
これらの写真が示すように、藻類の宿主細胞はPBCV-1の感染後、細胞外の線維性の外被が形成する。感染した藻類細胞とアグリカン由来のヒアルロン酸結合タンパク質との相互作用、または、Streptomycesヒアルロン酸リアーゼによる処理後、線維が消失することなどにより示されるように、この線維はヒアルロン酸からなる。ウィルスの生活環におけるヒアルロン酸の役割については明らかではない、しかし、世界中の分離体が機能的なHASを持っていることから、その役割は重要に違いない。 cw、細胞壁;cyto、細胞質(協力:Robyn Roth、John Heuser)
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III グラム陰性菌由来ヒアルロン酸合成酵素pmHasの発見
Pasteurella multocidaは1879-80年にToussantとPasteurによって初めて報告されたグラム陰性菌で、この種の名前の由来のように広い範囲の動物に感染し、しばしば死に至らしめる4。ある種はトリ (鳥禽コレラ) 、ウシ (輸送熱)、ブタ (萎縮性鼻炎)に好んで感染し、多大な経済的損失を生じる。P. multocidaはネコやイヌの口中の共生生物としても見つかっており、ヒトが動物に咬まれてこの細菌が混入し、敗血症を引き起こす主要な原因となる。Carterらのグループは、ヒアルロニダーゼ処理によって除去可能な、細胞外の被膜を産生する、特定の鳥禽コレラを初めて見出し、これをA型に分類した(Fig. 4)。化学的そしてNMRを用いた解析から、A型の被膜の高分子物質はヒアルロン酸であることが証明された5。厚く被膜で覆われた鳥禽コレラの分離体からの膜画分を用いた生化学的解析からin vitroでのHAS活性が示された6。この酵素活性もまた、マグネシウムの代わりにマンガンイオンを (cvHASのように) 好んだ。

Fig. 4. Pasteurella multocidaタイプAの光顕写真
これらのグラム陰性悍菌はしばしばヒアルロン酸で覆われた対を形成する。このヒアルロン酸カプセルはインディアインクのネガティブ染色により、微生物の周りの後光のように、容易に見ることができる(細胞は緑で一対として表した)。このカプセルはトリやウシの宿主への感染性を促進する毒性因子として働く。
1988年にトランスポゾン挿入変異導入によってタグをつけ、pmHas (GenBank Accession # AF036004) と名付けられた新規のHAS遺伝子の同定がなされた7。この972残基よりなる1つのopen reading frameを適当な大腸菌株に発現させると、in vivoでヒアルロン酸被膜を作ることができた。さらに、組み替え大腸菌由来のpmHasを含む膜画分はin vitroで本物のヒアルロン酸ポリマーを生成した。驚いたことに、pmHasのアミノ酸配列はこれまでに報告されてきた連鎖球菌、脊椎動物、ウィルスのHASとは大きく異なっている。pmHasの大きさはおよそ2倍で、異なった被膜多糖やリポ多糖を合成する細菌酵素により似ている(Fig. 5)。
異なった多糖を持ついくつかのPasteurella被膜タイプ (Aに加え、B、D、F) がCarterと米国農政省の他の研究者 (Heddleston、Rimler、Rhoadesを含む)によって報告されてきた。B型ポリマーはマンノース、アラビノース、ガラクトースからなる。D型とF型の分離体はヘパリン様またはコンドロイチン様の多糖鎖をそれぞれ合成する。はじめてのコンドロイチン合成酵素はF型P. multocida分離体でpmHas酵素との相同性を利用して同定された8。この新しい酵素は、pmCSと名付けられ、pmHasと87%の同一性を示した。ヒアルロン酸とコンドロイチンの骨格はGlcNAcの代わりにGalNAcに置換されていることを除いて構造的には同一であることから、この高い相同性は容易に理解できる。

Fig. 5. Pasteurella pmHasと他の糖転移酵素とのアミノ酸配列の比較
このMultalin plotはpmHasと特徴的な多糖やリポ多糖を合成する他の菌体酵素との相同性を示す。これらの他の酵素(ここでは代表としてStreptococcus pneumoniae Cps14JとHaemophilus influenzae LgtDを示す)のすべては単一の糖結合の転移を触媒するだけである。pmHasの配列は、他のHASとはあまり揃わないので、別のクラスに割り当てられるべきである。
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IV PBCV-1とA型Pasteurella multocidaにおけるヒアルロン酸の生物学的役割の可能性
クロレラウィルスのライフサイクルにおけるヒアルロン酸の役割はまだわかっていない。しかし、世界中からの多くの分離体は、HAS遺伝子を持ち、感染の初期に宿主にヒアルロン酸を合成させる。以下のいくつかの仮説が提唱されている:(i) 二次的なウィルス感染の防止、(ii) ウィルスの放出数を増加させるために宿主細胞の脆弱性の安定化、(iii) ヒアルロン酸でコートされた感染細胞と他の宿主動物との相互作用の促進2, 3。現時点では、いくつかの証拠から(i)がある程度あてはまることが示された。現段階において、PBCV-1のシステムに、遺伝子ノックアウトや特異的変異体を作り出す分子遺伝学的ツールがないことが、厳しい技術的な制約となっている。cvHASの発見と生命の驚くべき多様性という観点から、水生、陸上の地球上の生物圏のその他のウィルスが、ヒアルロン酸またはよく似たポリマーを合成する遺伝子を持っていたとしても、驚くことでない。

一般に、細胞外の細菌類の被膜は以下のような1つないしはそれ以上の役目を果たしていると考えられている:(i) 宿主防御から逃れる(例えば、補体や抗体)、(ii) 接着とコロニー形成の促進、 (iii) 乾燥に対する抵抗、(iv) 宿主の生理の変更。いくつかのグループによる実験的証拠から、P. multocidaはヒアルロン酸被膜を少なくとも初めの2つの役目として利用していることが示唆された。被膜特異的抗体を産生する為に、大抵の(ヒアルロン酸以外の)被膜多糖は一度だけ病原性微生物となれる。

つまり一度の感染で、動物は大抵同じ被膜のタイプを持つ細菌による感染に、免疫を持つようになる。多くの他の陰イオン性被膜多糖とは対照的に、A型P. multocidaのヒアルロン酸ポリマーは脊椎動物である宿主のヒアルロン酸ポリマーと同一である。そのため、このヒアルロン酸被膜は免疫原性ではなく、理論的には抗被膜免疫グロブリンよる防御が、持続的または2回目のP. multocida感染を拒絶するようにはならないので、より悪性な因子なのである。宿主のコロニー形成に関して、脊椎動物の宿主の主要なヒアルロン酸結合タンパクであるCD44がヒアルロン酸被膜を持ったPasteurellaやA群連鎖球菌をアンカーし、特定の組織に局在させるかもしれないとの仮説も提唱されてきた。ヒアルロン酸被膜を欠く、またはヒアルロン酸被膜のコートをヒアルロニダーゼ処理で除いた被膜を持たない微生物は、宿主に留まったり、分離された組織に結合することはない。

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V 2種類のヒアルロン酸合成酵素
すべての既知のHASのシークエンスと生化学的解析から、少なくとも2種の異なったHASのクラスが存在することが示唆される(Table 1)9。連鎖球菌、脊椎動物、クロレラウィルスの酵素(クラスTHASとしてグループ分けをする)は、7つの短いアミノ酸配列のモチーフと保存されたモチーフ間スペースを持つ(Fig. 2)。他方、Pasteurella HAS (クラスUのただ1つのメンバー)は、これらの配列モチーフの2つのみのバリアントを持つ。さらに、クラスT酵素は膜貫通タンパク質であることが予測されるが、pmHasは未知のパートナーを介して膜二重層と間接的に相互作用するようである(第IX章参照)。というわけで、2つのクラスのHASは独立に進化し、同じUDP-糖前駆体を利用して同じ多糖を合成する反応を触媒するようになったらしい。この仮説は、ヒアルロン酸の重要性に対する我々の関心を増すと共に、生物学者と酵素学者に興味深い疑問を提示している。

Table 1. 2種類のヒアルロン酸合成酵素
クラスTとクラスUの酵素は分子量、配列と膜における推定上のトポロジーが異なる。外から加えたヒアルロン酸アクセプターを伸長する能力からすると、反応機序も異なっているかもしれない。

クラスI
クラスII


メンバー
spHas, seHas, cvHas
脊椎動物HAS 1,2 & 3
pmHas
ポリペプチドのサイズ
417-588残基
972残基
トポロジー
多回膜貫通の
膜貫通タンパク質
膜画分のパートナーとの
結合部位を持ち可溶性
ポリマー伸長の
分子方向性
不明
(多分、還元末端)
非還元末端伸長
受容体の利用
受容体未確認
利用; 例: HA4
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Pasteurellaヒアルロン酸合成酵素の糖受容体の利用
pmHasがいくつかのリポ多糖転移酵素とアミノ酸レベルで相同性を持つことから、GlcUAとGlcNAcの転移にヒアルロン酸オリゴ糖が、それぞれの糖ヌクレオチドからの受容体となりうると考えられた。精巣ヒアルロニダーゼ消化物から得られた非標識ヒアルロン酸4糖 [以下HA4と略記] を、組み替え大腸菌由来のpmHasの反応混合溶液に加えると、UDP-[14C]GlcUAからポリマー化したヒアルロン酸に、オリゴ糖の無い反応に比べて約20-60倍にまで放射能の取り込みが促進された10

他方、構造類似の糖(ヘパロサン五量体またはキトテトラオース)は放射能標識の取り込みを促進しなかった。組み替えpmHAS、3H-HA4、非標識UDP-GlcNAcとUDP-GlcUAを含む反応のゲル濾過クロマトグラフィーによる解析から、約0.5から5×104 Da (25-250単糖) の放射標識されたポリマーが合成されたことが示された10。しかしながら、P. multocida膜画分から単離したネイティブなpmHasの活性は、同様の条件下でヒアルロン酸オリゴ糖を添加しても促進されなかった。ネイティブなpmHas酵素は膜画分を単離する前に、生きた細菌中で合成開始された、生成途中の結合したヒアルロン酸を持っているようである。他方、宿主である大腸菌がUDP-GlcUA前駆体を合成しないので、組み替え体酵素は、生成途中のヒアルロン酸鎖をもたないことが予測される。というわけで、外から加えたヒアルロン酸由来オリゴ糖は、組み替えpmHasの活性部位に届いて伸長反応を受けた(Fig. 6)10

他方、Saccharomyces酵母(宿主はヒアルロン産生合成を支持できない)から調整した組み替えspHasと組み替えXenopus xlHas1(元々はDG42と名付けられた)のどちらも、ヒアルロン酸由来オリゴ糖をより大きなポリマーに伸長しなかった10。この発見はDorfmanらのグループによる連鎖球菌の酵素を用いた、初期の報告と同様であった。しかしながら、連鎖球菌または脊椎動物の酵素の組み替え体は通常のHASアッセイでは高活性を示し、放射能標識UDP糖はヒアルロン酸に重合された。この違いは2つのクラスのHASが存在することのもう一つの証拠である(第V章を参照)。
Fig. 6. pmHasによって触媒されるヒアルロン酸伸長のモデル
ヒアルロン酸由来オリゴ糖(HA4が描かれている)は組み替えpmHasによってin vitroで伸長されうる。UDP-糖によって供与される単糖(GlcUA、マゼンタ;GlcNAc、青)はヒアルロン酸鎖受容体の非還元末端に順次付加される。ヒアルロン酸の繰り返し二糖構造はpmHasの2つの選択的糖転移酵素活性により作り出される
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pmHasのヒアルロン産生合成における
分子方向性と様式の解明

ヒアルロン酸のヒツジ精巣ヒアルロニダーゼ消化物から得られたHA4は、非還元末端がGlcUA残基で終わり、pmHasによるヒアルロン酸伸長の受容体になる。他方、Streptomycesヒアルロン酸リアーゼの作用によって生成された不飽和四糖と不飽和六糖のオリゴ糖は、ヒアルロン酸の重合を促進しなかった(Fig. 7)。リアーゼの脱離反応による開裂では、末端が不飽和糖でヒアルロン酸合成酵素によって通常伸長されるべきGlcUAのC4水酸基が欠如している。HA4をテトラヒドロホウ酸で還元しても受容体として働く活性に影響がなかったことから、還元末端のGlcNAcの閉じたピラノース環はpmHasにとって必要なかった。したがって、Pasteurellaにおいて生成途中のヒアルロン酸鎖の伸長は非還元末端でおこる10
Fig. 7. pmHasによって触媒されるヒアルロン酸伸長の方向性
ヒアルロン酸伸長の分子内の方向性はいろいろなHA4誘導体が受容体として働く能力を試すことによって確認された。非還元末端の脱水されたGlcUA(デルタ-HA4)が存在すると、伸長が阻害されたが、還元末端のピラノース環を開環しても(還元HA4)伸長には影響がなかった。
もし、つぎに伸長する適当なUDP糖前駆体のみが反応混合液中で利用可能ならば、組み替えpmHasは単糖の単位でオリゴ糖基質に伸長する。たとえば、UDP-GlcNAc由来のGlcNAcはHA4の非還元末端のGlcUA残基に付加され五糖を作る。他方、UDP-GlcUAのみが存在する場合、HA4は伸長されなかった。もし、ヒアルロン酸前駆体の両方が供給されれば、長い生成物が作られる。このようにpmHasの伸長反応では、個々の単糖を順次付加する。このような反応様式は、ほ乳類ヘパリンとコンドロイチン合成酵素(または共重合酵素)の反応に似ている。Pasteurellaのヒアルロン酸生合成において、ヒアルロン酸の繰り返し二糖構造は、この2つの個々の転移酵素活性の忠実度により生成される(Fig. 6)10
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二重活性をもつPasteurellaヒアルロン酸合成酵素は2つの活性部位を持つ
GlcNAc転移酵素またはGlcUA転移酵素という、ヒアルロン酸重合を形成する2つの半分の反応として測定されるpmHasポリペプチドの特徴的な活性によって、ヒアルロン酸生合成の理解が1999-2000年の間に大きく進んだ。pmHasアミノ酸配列は161-267、443-547番残基に位置する重複した約100残基の領域を持つ(Fig. 8)。これらの領域はクラスT、UのHASの両方で見つかるDGSDXDの保存された配列モチーフを持っている。我々はpmHasのこれらの2つのエレメントをドメインA1とドメインA2とそれぞれ名付けた。この命名法は、β結合糖鎖を作り出す他の糖転移酵素に提唱された"A"ドメインにこれらのpmHasのドメインが相同性を持つことに基づくものである11
Fig. 8. pmHasのドメイン構造予想図
推定上のpmHasタンパク質の配列を調べてみて2つの繰り返し領域が存在することがわかる。いろいろな欠失、部位特異的突然変異の解析から、第一の領域のドメインAはGlcNAc転移酵素活性(青)をもち、第二の領域のドメインA2はGlcUA転移酵素活性(マゼンタ)を持つことが明らかである。酵素動態の解析から、この部位は比較的独立していることが示唆された(例えば、一方の部位の変異は他方に影響を及ぼさない)。カルボキシ末端部位は菌体膜と相互作用するのに必須な部位を含んでいる(緑)。
X線結晶構造解析により、枯草菌から単離され、まだその特異性は不明である(!)もう一つの推定上の糖転移酵素SpsAの構造が決定された12。その構造から、DGSモチーフのアスパラギン残基は、UDP糖のウラシル環のN3基と相互作用することによって結合に関与し、一方、DXDモチーフの二番目のアスパラギン残基は、金属イオンとともにUDP糖のリン酸基と複合体を形成することが示された(Fig. 9)。pmHasの推定上の2つのドメイン中に保存された、DGSモチーフの196番目と477番目のアスパラギン残基は突然変異した13

すべてのpmHas変異体は完全なHASアッセイで測定すると不活性か、低い効率でしか長いヒアルロン酸ポリマーを合成しなかった。しかしながら、pmHasドメインA1の変異体(D196E、D196K、D196Nの置換体を含む)は、高いレベルのGlcUA転移酵素活性を維持していた。他方、pmHasドメインA2変異体(D477E、D477K、D477Nの置換体を含む)は高いレベルのGlcNAc転移酵素活性を保持していた。pmHasのアスパラギン残基の変異体は、それぞれの糖前駆体に対する結合能を明らかに失っており、そのため、ヒアルロン酸鎖に単糖を取り込まない。D196またはD477をアスパラギンまたはグルタミンで置換した変異体タンパク質は不活性かまたは非常に弱い活性しか示さない転移酵素であることから、このモチーフのアスパラギン側鎖のサイズと電荷が、ウラシルとの相互作用に重要であることを示している。

この結果は、ドメインA1はGlcNAc転移酵素活性に必須であり、ドメインA2はGlcUA転移酵素活性に必須であるという、pmHas酵素には異なった2種類の転移酵素部位が存在するという仮説を非常に強固なものとした(Fig. 8)。GlcNAc転移酵素、または、GlcUA転移酵素どちらかを選択的に破壊しても、ミカエリス定数(KM)による評価からは、残りの転移酵素活性は阻害しない。この知見から転移酵素ドメインはむしろ独立していることが示された。このように、pmHas誘導体は、さらなる開発により、特異的なオリゴ糖、または、ヒアルロン酸由来のデバイスまたは分子を創造するのに、調節可能な生命工学的触媒としての有用性を提供するはずである。
Fig. 9. 繰り返しモチーフの役割に関する予想図
pmHasと三次元構造のわかっているSpsAとの配列の相同性にもとづき、DGSDXDモチーフ(青)の役割は、それぞれ、ウリジン環への結合と糖前駆体の金属イオン(緑円)との協調にあることが推測される。
pmHasポリペプチドに2つの独立した活性部位が存在するというさらなる証拠が、in vitroにおける酵素相補性の実験から得られた13。標準的なヒアルロン酸合成アッセイをGlcNAc転移酵素に変異を起こした酵素と、GlcUA転移酵素に変異を起こした酵素の混合物を用いておこなった。この混合物はヒアルロン酸由来の受容体を迅速に伸長した。このin vitroにおけるヒアルロン酸合成酵素の再構成のもっとも単純な説明は、初めのヒアルロン酸が一方の機能的な転移酵素によって伸長され、解離し、他方の転移酵素によって繰り返し、加工的(processive)にではなく伸長されるというものである。現在、連鎖球菌と脊椎動物の酵素、クラスTHASsにおいては対照的に、ヒアルロン酸を加工的に重合し、糖鎖が完成した後のみ糖鎖が解離されると考えられているa

aこのシリーズのWeigelの総説を参照。

クラスT酵素の活性部位に関して、木全らのグループは可溶化したマウスHas1酵素がHASとキトオリゴ糖(短いGlcNAcポリマー)合成活性の両方を持つことを調べた14DSDモチーフの242番目のアスパラギン残基の変異導入により、両方の活性が約99%減少した。SGPLGモチーフの314番目のロイシン残基の変異導入はHAS活性を消失したが、キトオリゴ糖を重合する活性は保存された。このことからクラスTHASにも2つの活性部位が存在するようであるが、ヒアルロン酸の重合におけるこれら個々のモチーフの役割はまだ明らかになっていない。
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Pasteurellaヒアルロン酸合成酵素の推定上の膜−相互作用部位
いろいろな欠損pmHas変異体の細胞内局在の解析の結果、カルボキシル末端がこのHASを脂質膜に移行させるのに必須であることが示された(Fig. 8)13。カルボキシル末端の269残基を欠損する変異体pmHas1-703はHAS活性を保持したが、可溶性の細胞質内タンパクに変化していた。カルボキシル末端は、推定上の疎水性または膜結合領域を含まないにもかかわらず、ネイティブなpmHasが、他の二重層結合分子と相互作用することによって膜と結合するのに大きな寄与をしているようである。可能性のある相手としてはHaemophilusやある大腸菌のような、いくつかのグラム陰性菌の夾膜多糖を細胞外へと輸送するのに必要な輸送機構を形成するタンパクの1つがあげられる。

それと対照的に、クラスTHAS酵素は推定上6-8箇所の膜貫通、または膜結合部位をポリペプチド鎖のいくつかの領域に持っているa,b。このモデルはspHasに関して行われた最近のトポロジカルな実験とも一致するa,15。クラスTHAS酵素は、成長し続けるヒアルロン酸鎖を生合成時に脂質二重層を通して輸送している可能性が高いが、この仮説の証明は実験的には容易でない。

a このシリーズのWeigelの総説を参照。
b このシリーズのSpicerとMcDonaldの総説を参照。


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結語
クロレラウィルスとPasteurella bacteriaからの新しい2つのHASは、確かにヒアルロン産生合成に関する我々の理解を促進した。少なくとも2つのクラスのHASが存在する。クラスTは連鎖球菌、脊椎動物とウィルス酵素で、クラスUは、今まではpmHasのみからなる。cvHasの発見は、可能性としてのすべての種におけるヒアルロン酸の生物学的重要性に光を当て、配列の比較によるHASの"重要な"部位により詳細な検討を可能にした。それとは対照的に、pmHasの存在は、自然はヒアルロン酸を合成するという同じゴールに辿り着くもう一つの別な経路を考案できたということを描き出している。pmHasの独特な生化学的特性は、単一のpmHasポリペプチド鎖の中で、2種の特異性の高い糖転移酵素が協調して動き、非還元末端に交互に糖を付加することによって、ヒアルロン酸を構築しうるということを明らかにした。

しかし、多くの疑問がまだ残っている。糖転移酵素活性の特異性を決定するアミノ酸残基とその構造は何なのか?pmHasのヒアルロン酸結合部位の性質は何なのか?クラスT酵素における合成中のヒアルロン酸を保持する機構に相当するものは何であろうか?2種の反応を触媒する酵素の転移酵素部位はどのようにして成長し続けるヒアルロン酸に出会い、伸長するのであろうか?優雅さと上品さが、HASの作用機序の基礎となる要素であることは間違いないだろう。

謝辞:ウィルスと感染細胞の図の提供に対し、Jim Van Etten博士とMichael Graves博士に感謝する。この研究は国立衛生研究所(R01-GM56497)と国立科学基金の助成金(MCB-9876193)により行われた。
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References
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