Sep. 15, 1998

細菌のヒアルロン酸合成酵素(1998 Vol.2, A6)

Paul H. Weigel

Dr. paul

氏名: Paul H. Weigel
Paul Weigel博士(Ph.D.)は化学における理学士をCornell大学から、また博士号は1975年The Johns Hopkins University School of Medicineから取得した。博士は1978年助教授としてGalvestonのThe University of Texas Medical Branchに移り、1987年に生化学と細胞生物学の教授となった。1994年からはOklahoma CityにあるOklahoma大学健康科学センター医学部生化学および分子生物学科の教授で学科長をつとめている。Weigel博士はいくつかの分野で重要な研究上の貢献をしているが、その中には受容体を介したエンドサイトーシスが関与したmultiple coated pit pathwayと、ヒアルロン酸生合成酵素の発見が含まれる。博士は長年ヒアルロン酸の生化学と生物学に興味を持ってきた。彼のグループが初めてヒアルロン酸合成酵素遺伝子を同定し単離した。Weigel博士の研究室はまた、特異的ヒアルロン酸レセプターと結合タンパク質を検出し研究するための、高い比放射能を有する、構造的に明確なヨウ素化ヒアルロン酸オリゴ糖の使用を開発した。このアプローチにより彼の研究室は最近、レセプターを介したエンドサイトーシスにより血中ヒアルロン酸断片を除去する、肝臓の内皮細胞レセプターを精製することができた。

1. 前書き

このシリーズで初めの2つの総説1,2はヒアルロン酸の構造、性質および生物学について論じている。正常な発育と健常時、および種々の疾患におけるこの重要な多糖の役割を理解するためには、ヒアルロン酸の合成を担当する実際の酵素についてもっと知ることが重要である。われわれはこれらのタンパク質、すなわちヒアルロン酸合成酵素が、いかにヒアルロン酸(以下HAと略記する)を合成するか、またそれがいかに制御されているかを知る必要がある。1993年にわれわれが、A群Streptococcus(連鎖球菌)からHA合成酵素を遺伝情報としてもつ最初の遺伝子を発見してから、他の研究者達3がヒト、マウス、カエルまたさらに藻類と原生動物を宿主として感染するウイルスにおける同様なHA合成酵素の遺伝子(またはcDNA)を同定してきた。4 これらのHA合成酵素は、多くの共通の特徴をもち、またアミノ酸配列の同一または類似領域をもったタンパク質の大きなファミリーを形成している。

2. 細菌におけるヒアルロン酸の合成

何種類かの細菌が、哺乳類がつくるのと同じHA多糖を作ることができるということは奇妙に思われるが、これらの微生物は病原体としてのライフスタイルを生きるための賢い方法を作り出したのである。Fig. 1に示したように、C群Streptococcus equisimilis(動物と、時にはヒトの病原体)や、A群Streptococcus pyogenes(ヒト病原体)および Pasturella multosida(動物病原体)は、HAの厚い層で自分自身を囲うことにより、宿主の免疫系から隠れることができる。このHAバリアーまたはカプセルは、われわれの組織中のHAと同じ構造をしているので、細菌は簡単に抗体に認知されたり、食細胞に攻撃されたりしない。研究の結果、これらの細菌においてHAカプセルはその病原性において大きな働きをしていることが確認された。

図1

Fig. 1 C群連鎖球菌(Streptococcus)細胞のHAカプセル
電顕像はStreptococcus equisimilisの連鎖と右側下部には単一の細菌を示す。これらは厚いHA層により取り囲まれている。横棒は1マイクロメーターを示し、倍率は約27,000倍である。一般的にはHAカプセルの厚さは細菌細胞の直径の1〜3倍である。
陰イオン性のHAは電子密度の高い鉄の核を含む陽イオンのフェリチン粒子(約10 nm)により視覚化されている。

病原性細菌がHAカプセルを製造可能になると利益があるにもかかわらず、(何千という種の中で)たった約6種の細菌だけがこの生合成能力を獲得している。これは多分これらの細菌にとってかなりの不利益も同様に生ずるからであろう。第㈿節で論じるが、1つの不利益は細胞壁合成の阻害により直接増殖速度が低下することであろう。他の要因としては、多量のHAカプセルが代謝上の大きな負担になることである。このカプセルを組み立てるのに使われている糖は、そうでなければ細菌の成長や分裂におけるエネルギーを供給できる。糖とエネルギー代謝の多くの部分をカプセルの製造に使う一方で、その増殖を維持する代謝能力を有することは、全てのタイプの細菌にとってできることではないだろう。

いくつかの細菌がHA合成酵素遺伝子およびこれに関連した他の遺伝子を、いかに獲得したかは不明であるが、連鎖球菌(Streptococcus)と真核生物の酵素が非常に似ているのは偶然の一致ではないこと、を推測するのは興味をそそられる。今日のA群およびC群連鎖球菌の先祖の細菌が宿主の真核生物から、原始的なhasBhasC遺伝子(以下で議論するが)と同様に、原始的なHA合成酵素遺伝子を取り込んだという可能性が大きい。

歴史的には、HA生合成の最初のセルフリー形での研究は、A群連鎖球菌を使って行われた。1950年代と1960年代のDorfmanと共同研究者による開拓的仕事において、連鎖球菌のHA合成酵素は細胞膜に局在し、Mg++イオンを必要とし、HA鎖を伸長させるのにUDP-グルクロン酸(UDP-GlcA)とUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)の2つの糖ヌクレオチドを用いた。5 しかしながらその後、これらのまた他の多くの研究者たちは、この酵素を活性があり安定な形で可溶化したり、うまく精製したりすることができなかった。同様に、真核生物のHA合成酵素もまだ精製されていない。われわれによりA群6とC群7連鎖球菌のHA合成酵素遺伝子が単離されたが、今では大腸菌においてこのタンパク質は大量に産生されるようになった。

結局HAの“誕生宣言”1の64年後、HAを作るHA合成酵素は精製されたのである。8 2群の連鎖球菌のHA合成酵素は非常によく似ているが、Pasturella multocidaから得たものは構造的に全く異なっている。今回は連鎖球菌の酵素のみについて論じることとする。

3. ヒアルロン酸合成の概観

われわれの知っているほぼ全ての酵素は、1つか2つ(またはまれには3つ)の基質を用いて1つか2つのプロダクトを生む反応を触媒している。HA合成酵素ファミリーは、知られている酵素の中ではユニークである。

HA合成酵素は1つの同じ酵素内に2つの異なった酵素活性(すなわちグリコシルトランスフェラーゼ)を有し、各糖が付加された後のHAプロダクトは、次の糖添加のための基質となるのである。HA合成酵素はまた膜酵素でもある。HA2糖1単位の合成全反応は次の式で示される(ここでnは2糖単位の数を表す)。


Fig. 2に示したようにこの酵素は、この一見単純に見える反応を進めるために少なくとも6つの機能を持たなければならない!連鎖球菌のHA合成酵素がクローニングされ、精製されたことにより、この複雑な反応の詳細やそのメカニズムについての数多くの質問に答えることができるようになった。

図2

Fig. 2 ヒアルロン酸の生合成に必要な酵素の機能
図は膜に結合したHA合成酵素と、くり返し2糖単位を作り成長するHA鎖を伸長するために酵素に要求される6つの独立した活性を示している。放出される前にHA鎖は単糖として40,000個以上(これは分子量として800万に相当する)成長できる。細胞内で糖ヌクレオチドが作られHA合成酵素によって使われる、そしてHA鎖は連続的に移送されカプセルを形成するために細胞外へ押し出される。

4. 連鎖球菌のヒアルロン酸合成オペロン

連鎖球菌がHAカプセルを合成するためには、通常3つの異なった遺伝子が存在しなければならない。3つの異なった酵素の情報を組み込んだこれらの3つの遺伝子は、Fig. 3に示したようにひとつのオペロンとして配列され、HA合成(またはhas)オペロンと称される。2つの酵素は、細胞が多量の2種類のUDP-糖前駆体を合成するために必要であり、第3の酵素はhasAと呼ばれる遺伝子によりコードされているHA合成酵素である。UDP-グルコースデヒドロゲナーゼ(遺伝子名hasB)は、HA合成に必要な2つの基質の1つであるUDP-グルクロン酸を作るのに必要で、この反応はNAD2分子を使ってUDP-グルコースを酸化することにより行われる。UDP-グルコースピロホスホリラーゼ(遺伝子名hasC)はUTPとグルコース-1-リン酸からUDP-グルコースを作り出す。

図3

Fig. 3 連鎖球菌のヒアルロン酸生合成遺伝子の配列
各矢印は細菌ゲノムにおける各遺伝子を表し、これらは矢印の方向に転写される。hasオペロンはA,B,Cと呼ばれる、共働的に制御される3つの遺伝子を含んでいる。A群連鎖球菌においては、組み換えタンパク質F(recF)、イノシン-5'-モノリン酸デヒドロゲナーゼ(guaB)、それに未知の膜タンパク質(memX)の遺伝子がhasオペロンの近くにある。

UDP-グルコースは他の全ての糖ヌクレオチドが作られる前駆体なので、細胞により作られるUDP-グルコースの量は細胞の全ての糖ヌクレオチドの全量を制御することになる。HAカプセルを産生する細菌はこのピロホスホリラーゼに対し2つの異なった遺伝子をもっており、1つは細胞の通常の代謝に必要な糖ヌクレオチドを供給するものであり、第2のhasCは細胞の産生する糖ヌクレオチドの総量を大幅に増やすことにより、細胞外カプセル中の多量のHA合成をサポートしている。HA合成に必要な量のUDP-グルクロン酸を供給するために、hasB遺伝子産物のただ1種の翻訳物が存在するに違いない。

もし細菌細胞が糖ヌクレオチドプールを増大させないで、大変活性の高いHA合成酵素がHAを合成すれば、細胞中のUDP-グルクロン酸とUDP-N-アセチルグルコサミンを枯渇させるであろう。後者は細胞壁合成にも必要であり、これが枯渇するようであれば増殖が止まると思われる。実際このことは、前記の2つの糖ヌクレオチドを産生するが、糖ヌクレオチドプールを拡大するのに必要なhasC由来の酵素を発現しない他の種の細菌に、連鎖球菌のHA合成酵素遺伝子を発現させると起こり、このような細菌はよく増殖しない。

このような低い細胞増殖問題を克服するために、われわれはUDP-グルコースデヒドロゲナーゼを欠き、従ってUDP-グルクロン酸をもたないE.Coli細胞にHA合成酵素遺伝子を発現させた。この場合には、生細胞中で発現した組み換え合成酵素はHAを作ることができない。しかしながら、これらの細胞から得た膜または精製HA合成酵素をin vitroでUDP-グルクロン酸およびUDP-N-アセチルグルコサミンと一緒に加えると、HA合成に要求されるのはただ1つのHA合成酵素のみである。従って異種の細菌において十分なHAの生合成またはHAカプセルの生産を観察するには、hasオペロンと同等のものをもつ必要があり、hasBhasC遺伝子も導入する必要がある。

5. ヒアルロン酸合成酵素遺伝子のクローニング

連鎖球菌のA群酵素(spHAS)とC群酵素(seHAS)は70%のアミノ酸共通性を有し、それぞれアミノ酸数419と417で、HA合成酵素ファミリーの最も小さなメンバーである。3,7 A群6とC群7連鎖球菌のHA合成酵素遺伝子をクローニングすることにより、われわれはHAの生合成には、HA合成酵素遺伝子の産物(HASタンパク質)のみが必要であることを、生化学的にも遺伝学的にも確認することができた。これらの遺伝子を単離する事により大きな躍進が遂げられた、なぜならこれらのHA合成酵素の構造と機能を研究するため、種々の組み換えDNAテクニックにより遺伝子配列を操作できるからである。HA合成には単一の遺伝子産物のみが要求されるという発見には当初驚かされた、なぜならFig. 2に示したように、HA生合成プロセスはいくつかの機能から成り、非常に複雑だからである。例えば多くの研究者は、2つのグリコシルトランスフェラーゼを触媒するには少なくとも2つのタンパク質が含まれると考えていた。われわれはFig. 2に示した6つの機能を達成するために、この酵素は48kDaより大きいと考えた。連鎖球菌のHA合成酵素は、純粋な状態で研究された、ヘテロ多糖を合成する最初の酵素である。8

6. ヒアルロン酸合成酵素のトポロジー

Fig. 4は連鎖球菌と、多分真核生物の、HA合成酵素が細胞膜中でいかに組み立てられているかを示した単純なモデルである。模式図は酵素が細胞膜中でいかに配列されているかを示す。NおよびC末端を含むタンパク質の大部分は細胞の内側にある。

合成酵素の膜ドメインの4カ所だけが膜を通過しており、その結果たった2つの小さなタンパク質ループが細胞外にさらされている。大きな中央のドメインを含むタンパク質の他の2つまたはそれ以上の部分は、両親媒性のヘリックスまたは内にへこんだループとして膜に結合し貫通はしていないようだ(Fig. 4)。

図4

Fig. 4 膜における連鎖球菌ヒアルロン酸合成酵素の構成
図はHA合成酵素のポリペプチド鎖の推定されるトポロジーを示している。NおよびC末端部分と、全タンパク質の60%以上が細胞内にある。タンパク質の約5%のみが細胞の外側にある。2つの型の膜領域部分が存在する: 即ち膜貫通領域(TMD1,2,3と4)と、膜を貫通しない膜結合領域(MAD1と2)。

HA合成酵素は非常にコンパクトできっちり折りたたまれて、強い界面活性剤であるSDSの存在下でも、タンパク質は48kDaというより42kDaであるようにふるまう。還元試薬はこの挙動を変えないので、ジスルフィド結合は多分存在しないことを示している。われわれがseHASの4つのCys(システイン残基)または、spHASの6つのCys残基を変換した、タンパク質化学的および突然変異の研究でも、この結論と一致した結果が得られた。

7. ヒアルロン酸—輸送のパラドックス

Fig. 24で示されたモデルおよび上述したように、少なくとも酵素を界面活性剤中で可溶化した場合は、HA生合成にはHA合成酵素以外のタンパク質は必要ないという発見から、HAの輸送機能に関連して逆説またはジレンマが生じる。この小さなタンパク質が、大部分は親水性だがいくらかは疎水性を示す2成長中のHA鎖を、細胞膜の疎水性脂肪バリアーを横切って輸送できることを、いかにしたら説明できるだろうか?膜を横切って糖のような小さな分子を輸送する他の膜輸送体は通常12またはそれ以上の膜貫通領域をもち、孔を形成している。HA合成酵素は大きさが不十分で、そのような孔を形成するのに必要な膜貫通領域を有していない。従って、膜を横切ってHAをどの様にして輸送できるのだろうか?このHA輸送に関するジレンマに対する1つの解決策は、この酵素が2量体またはそれ以上のオリゴマーを形成したときにはじめてHAを合成できることである。そうすれば各HA合成酵素タンパク質から孔を形成するのに十分な膜貫通領域が提供されるはずである。

8. 機能的ヒアルロン酸合成酵素のサイズ

活性のあるHA合成酵素が単体なのか、より大きなオリゴマーであるのかを決定するため、われわれは照射不活化分析(Radiation Inactivation Analysis)と呼ばれる技術を用いた。このアプローチは、研究対象の活性を非常に高エネルギーの照射を用いて壊すものである。この技術の主な2つの原理は
(1)標的タンパク質に衝突した1つの高エネルギー光量子の1つのヒットにより、標的が多くの小片に分解されるのに十分なエネルギーが移送される。
(2)ある照射量により、光量子がタンパク質に衝突する確率は、標的タンパク質のサイズに直接比例する。従って、照射量の関数としてHA合成酵素活性が1次反応で減少することから、われわれは活性酵素のサイズ(質量)を計算できる。

これらの実験の結果によると、両方の活性ある連鎖球菌HA合成酵素は単一の酵素タンパク質から成るが、タンパク質にはさらに約23kDaの追加物質が結合していた。9 興味深いことにこの追加物は、ありふれたリン脂質であるカルジオリピンと同定された。こうして活性型酵素は1つのHA合成酵素と約14〜18分子のカルジオリピンの複合体であることが分かった。実際どの連鎖球菌のHA合成酵素も、均質になるまで精製されると、カルジオリピンなしでは活性が非常に低かった。しかしながらこのリン脂質が再添加されると、酵素活性は10倍増加した。8

これらの結果から得たわれわれの解釈がFig. 5に描かれている。われわれはカルジオリピン分子が、酵素内に成長するHA鎖が通る孔状の通り道を作り出すことにより、HA輸送の難問を解決することを提唱する。カルジオリピンの脂肪部分は、細胞の脂質二重層およびHA鎖の疎水領域2と相互作用し、一方カルジオリピン分子の酸性の頭部は酵素およびHA鎖の親水性領域と作用しあうだろう(Fig. 5)。

図5

Fig. 5 カルジオリピンーヒアルロン酸合成酵素複合体のモデル
図は16のカルジオリピン分子(赤い丸)と、1つのヒアルロン酸合成酵素タンパク質が、密接に共同して活性のある酵素を作り出すことを描いている。この図は、紫色で示した細胞膜に平行な仮説的平面の図として示しており、細胞の外側から見ているので、酵素を通して白く示した細胞質を見ることが出来る。成長するヒアルロン酸は、この孔状開口部を通して移送されるだろう。ヒアルロン酸合成酵素の膜領域はFig.4と同様に名付けてある。

9. 残された疑問点

この酵素は小さく(約48kDa)、そしてうまく過剰発現と精製ができたので、連鎖球菌のHA合成酵素を研究することは、この酵素がいかに働き、HA合成がいかに制御されているかというようなHA生合成の詳細を分子レベルで理解するためには非常に有望である。真核生物のHA合成酵素に関してこのような情報が得られれば、ヒトの健康と疾病にもっと役立つと思われるが、これらの酵素はより大きく、多分もっと複雑で精製がより難しいであろう。まだ解決されていない以下のような重要な疑問点がある。

(1)連鎖球菌のHA合成酵素はHAを還元末端からか、それとも非還元末端から作り始めるのか?
多くのデータは、成長しているHA鎖は常にUDPに結合しつつ、還元末端で合成が起きるというモデルを支持している。1,3 しかしながらFig. 2中?で示したように、われわれはUDP-ヒアルロン酸オリゴ糖の存在を証明する、より直接的なデータが得られない限り、これはなお未解決の問題であると見なしている。この疑問に答えるため、われわれは現在精製した酵素を用いて高感度質量分析法で検討している。

(2)連鎖球菌HA合成酵素にはHA合成を開始するのにプライマーが必要か?
アフィニティーで精製した酵素は、HAを合成するのに2つの糖ヌクレオチド基質のみが必要であることから、プライマーの必要性は非常に考えにくい。しかしこの酵素が、短いHAオリゴ糖を作るために初めのいくつかの糖をいかに組み立てるかの詳細を知るまでは、これも未解決の問題である。もしプライマーが必要だとしたら、組み換え酵素が他の細菌中でも活性があることから、それは連鎖球菌の細胞に独特のものではないであろう。われわれはまた質量分析法により、精製したseHASとspHASタンパク質の質量は単量体の計算値の0.07%以内に合致することから、9また、活性のあるHA合成酵素は全く共有結合修飾を受けず、精製酵素は共有結合で結合したプライマーを含まないと考える。

(3)HA合成途中で何か共有結合性中間体が作られるか?
グリコーゲン合成酵素の場合のように、成長するHA鎖に付加される前に、1つまたはそれ以上の糖が酵素自身の官能基に転移される可能性がある。

(4)2種の糖ヌクレオチドに対し、実際には結合サイトとグリコシルトランスフェラーゼ反応サイトが2つあるのか、それとも1つのサイトで交互に特異性が変わるのか?
われわれはFig. 2が正しいと信じているが、しかし結合サイトは1つで、2つの基質が交互に認識されるために糖結合特異性が交互に現れているという可能性もある。同様に、2つのグリコシルトランスフェラーゼ活性サイトは酵素の別々の部位にあるのか、または1つの部位で、アクセプターと糖結合特異性が交互に変わるのであろうか?2つの糖ヌクレオチドの酵素への結合量の定量と、光により活性化される糖ヌクレオチドを用いた、酵素における結合部位の特定に関する研究が進展中である。

(5)細菌性HA合成酵素を特異的に阻害する試薬はあるか?

もし連鎖球菌と真核生物の合成酵素がHAを合成する方法の間で、何らかのメカニズム上の差があるとしたら、HAカプセルに付随した感染性または病原性を減少させる選択的薬剤を見つけることができるかも知れない。

10. 結語

今回私は最近の研究結果を述べてきたが、これは分子レベルにおいてHA合成がいかに起こるのかという基本的で重要ないくつかの疑問に対し、答えを出し始めている。5年前にわれわれは、グリコサミノグリカン合成酵素の最初のクローニングを報告した。今日では、HA合成酵素の1ファミリーが同定され、細菌、マウスモデルおよびヒト疾病におけるHA生合成のメカニズムとその制御の研究に使うことのできる核酸と抗体の両プローブが利用できる。最も重要なのは、これらの分子ツールが、最終的にこのシリーズで述べられている多くの重要なプロセスにおけるHAの機能と生物学を、研究者たちが研究し理解する上で役立つであろうということである。



〔謝辞〕この総説で述べられている私の研究室における研究は、National Institute of General Medical SciencesからのNIHグラントGM35978により支援された。またこの総説を書く上で示唆に富んだ助言を頂いたJanet Oka, Coy HeldermonおよびValarie Tlapak-Simmons博士に感謝します。


References

  1. Hascall VC, Laurent T: "Hyaluronan: Structure and Physical Properties" (article #1 in this series)
  2. Scott JE: "Secondary and Tertiary Structures of Hyaluronan in Aqueous Solution. Some Biological Consequences" (article #2 in this series)
  3. Weigel PH, Hascall VC, Tammi M: Hyaluronan synthases. J. Biol. Chem. 272: 13997-14000, 1997
  4. DeAngelis PL, Jing W, Graves MV, Burbank DE, Van Etten JL: Hyaluronan synthase of chlorella virus PBCV-1. Science 278: 1800-1803, 1997
  5. Markovitz M, Cifonelli JA, Dorfman A. The biosynthesis of hyaluronic acid by Group A Streptococcus. VI. Biosynthesis from uridine nucleotides in cell-free extracts. J. Biol. Chem. 234: 2343-2350, 1959
  6. DeAngelis PL, Papaconstantinou J, Weigel PH: Molecular cloning, identification, and sequence of the hyaluronan synthase gene from Group A Streptococcus pyogenes. J. Biol. Chem. 268: 19181-19184, 1993
  7. Kumari K, Weigel PH: Molecular cloning, expression, and characterization of the authentic hyaluronan synthase from Group C Streptococcus equisimilis. J. Biol. Chem. 272: 32539-32546, 1997
  8. Tlapak-Simmons VL, Baggenstoss B, Kumari K, Weigel PH: Purification and kinetic characterization of the recombinant hyaluronan synthases from Streptococcus pyogenes and Streptococcus equisimilis. (unpublished data)
  9. Tlapak-Simmons VL, Kempner ES, Baggenstoss B, Weigel PH: The active streptococcal hyaluronan synthases contain a single HAS monomer and multiple cardiolipin molecules. J. Biol. Chem. 273 (in press)
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