Aug 01, 2023

多面的な役割を持つガレクチン:多重人格の糖結合タンパク質
(Glycoforum. 2023 Vol.26 (4), A12)

DOI: https://doi.org/10.32285/glycoforum.26A12J

Gabriel Adrián Rabinovich

Gabriel Adrián Rabinovich

Gabriel Adrián Rabinovich
Laboratorio de Glicomedicine, Instituto de Biología y Medicina Experimental (IBYME), Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas (CONICET) y Facultad de Ciencias Exactas y Naturales, Universidad de Buenos Aires, C1428, Ciudad de Buenos Aires, Argentina.
Gabriel Rabinovich博士は、ブエノスアイレスのInstitute of Biology and Experimental MedicineのLaboratory of Glycomedicineの室長であり、Argentinean National Research Council (CONICET)の上級研究員であり、ブエノスアイレス大学の免疫学の正教授でもあります。知名度の高い科学雑誌に掲載された 320 以上の論文や出版物に示されるように、彼の研究は、ガレクチンが、糖鎖により提示された情報を、炎症を制御したり、自己免疫疾患を抑制したり、がん細胞が免疫応答を回避できるようにしたりといった、新規な制御プログラムに変換できることを実証しました。彼の発見は、癌と自己免疫疾患における新たな治療法の可能性を切り開きました。彼は米国科学アカデミー、欧州分子生物学機構、世界科学アカデミー (TWAS) の会員であり、糖鎖生物学会 (米国) のカールマイヤー賞、TWAS 賞、グッゲンハイム賞などの多くの賞を受賞し、水谷糖質科学振興財団(日本)からも資金提供を受けました。さらに、全世界で 450 以上の講演を行い、いくつかの科学会議を主催するなど、糖質科学の発展に大きく貢献しています。

多重人格障害は、異なる自己人格が自発的に発生されるという特徴を持つ精神疾患である。各人格はそれぞれに特有の形で現れ、別々の名前や生活圏、ライフスタイルを有していることが多い。ある人格から別の人格への交代は、一般的に環境および対人的要因によって引き起こされる1。この疾患の特徴は、まさにガレクチンの持つ性質に似ている。進化的に保存された糖結合タンパク質ファミリーであるガレクチンは、特定の機能に特化している多くの細胞内分子および経路とは異なり、免疫において多様な機能・役割を持っているからである2。ガレクチンファミリーに属するタンパク質は、その多くが細胞内の異なるコンパートメント(核、細胞質、およびオルガネラ)間を行き来し、細胞外環境に放出される。そして、低酸素、栄養状態、細胞内外のpH、サイトカイン環境、炎症性または免疫抑制性シグナルの存在など、多様な微小環境刺激に応答して異なる役割を獲得する。免疫系におけるガレクチンは、自然免疫および獲得免疫応答を調整する重要な機能を幅広く発揮することができ、正常および疾患状態における免疫細胞の協調的な振る舞いを作り出す上で重要な役割を担っている。興味深いことに、同じガレクチンであっても、活性化、分化、免疫細胞遊走などの細胞プログラムの違いや、病原体の侵入、自己免疫による炎症、線維症、がんなどの病態によって、サイトカイン、ケモカイン、細胞接着分子、免疫チェックポイント分子、危険・ダメージ関連分子パターン(danger-associated molecular pattern: DAMP)、あるいは成長因子として機能しうる3

1975年に初めてガレクチンが発見されてから4、このレクチンファミリーに関しては多くの情報が報告されてきたため、ガレクチンの定義も常に議論の的となり変遷してきた。ガレクチンのアイデンティティ危機は、発見後すぐに始まった。糖結合の特異性や分子量、由来する組織や動物種など、その多様な特徴に基づいて複数の名前が付けられていたのである。例としてごく一部を示すと、最終的にガレクチンという言葉が生まれるまでに、ガラプチン、エレクトロレクチン、S型レクチン、β-ガラクトシド結合レクチン、C16、C34、Mac-2、ニワトリラクトースレクチン(CLL)などの名称が用いられ混乱を極めていた5,6。結果的に、ガレクチンという用語は現在、β-ガラクトシドに親和性を示し、糖結合部位に顕著な配列類似性を有する動物レクチンに対して用いられるということで一般化がなされている7。ガレクチンはもともと脊椎動物で発見されたが、海綿体から哺乳類まで動物界に広く分布していることが知られており、ガレクチン様ドメインはウイルスや植物でも見つかっている8。ガレクチンファミリーの中には、ガレクチン-1や-3など様々な細胞や組織で恒常的または誘導的に広く発現しているものがある一方で、他のガレクチン-は発現範囲が限られ、例えば、ガレクチン-4、-7、および-12は、それぞれ消化管、皮膚、および脂肪組織に多く発現している9

糖鎖結合の特異性について考えると、ガレクチンは当初、複合型N型糖鎖およびコア2型O型糖鎖のN-アセチルラクトサミン(LacNAc)末端構造にのみ選択的に結合する「一夫一妻型」のタンパク質と定義されていた。しかし、当初の予想以上にガレクチンは「浮気性」なようで、シアリル化、フコシル化、さらにはマンノシル化された構造を認識するなど、糖鎖結合の親和性に大きな違いが確認されており2,10、おそらくこの違いによってガレクチンの生物学的活性の多様性の一端を説明することができる。さらに複雑なことに、これらの糖鎖は、免疫細胞表面に存在する受容体チロシンキナーゼ(VEGFR2など)、チロシンホスファターゼ(CD45など)、ムチン(CD43など)、インテグリン(β2-インテグリンなど)、免疫チェックポイント受容体(Tim-3、PD-1、LAG-3など)、および抗原受容体(BCRおよびTCR複合体)を含め、数えきれないほどの受容体に発現している可能性がある。つまり、ガレクチンの場合には、1タンパク質–1受容体のパラダイムが当てはまらず、個々のガレクチンが、その結合パートナーとして細胞表面にある多様な糖鎖結合体(glycoconjugates)を共用している可能性があるのである。したがって、あるガレクチンに対する細胞の機能的応答は、糖転移酵素およびグリコシダーゼの協調的な作用によって生成されるであろう受容体上の糖鎖のレパートリーや、選択された細胞表面受容体との結合に依存して変化しうる2

ガレクチンは、細胞質タンパク質に共通するあらゆる特徴を有している。例えば、自身は糖鎖修飾を受けず、また小胞体-ゴルジ体経路を通した分泌に必要なシグナルペプチドも持っていない。しかしながら、ガレクチンは、しばしば細胞外に分泌され、多様な生物学的機能を発揮する。細胞外においてガレクチンは、細胞表面や細胞外マトリックスに存在する糖鎖結合体を架橋することで、細胞内のシグナル伝達を誘導し、免疫プロセスを増幅または抑制している。同じガレクチンが、このような異なる効果、そしてしばしば正反対の効果を発揮するのはどうしてなのだろうか? ガレクチンの機能の多様性を生み出すメカニズムはよくわかっていないが、いくつかの要因に依存しているようである。具体的には、生理的あるいは病的な微小環境におけるガレクチン濃度、酸化的あるいは還元的な条件下でのそれぞれのガレクチンの安定性、物理化学的特性(モノマー/ダイマーの平衡)、細胞代謝の変動、そして、特定の糖鎖エピトープの露出あるいは遮蔽につながるような特定の標的細胞の活性化・分化状態などが挙げられる11。さらに、生物学的応答の違いは、個々のガレクチンが持っている多様の特性(生化学的・生物物理学的特性や架橋活性)により、細胞表面の糖鎖複合体が選ばれ、クラスター生成、エンドサイトーシスの誘導、または他の糖鎖複合体から隔離することで生じているようである12

ガレクチンの機能として最も広く研究されているのは、サイトカイン様活性である。実際、ガレクチンとサイトカインには、さまざまな刺激(抗原刺激やストレス)に応じて放出され、オートクリンまたはパラクリンに作用して炎症反応を促進または抑制するという共通点がある。多くのサイトカインと同様、ガレクチンは様々なシグナル伝達の制御点(結節点・ノード)に微調整を加えることで、免疫細胞の活性化、分化、増殖、 および生存を制御することができる13。実際に、組換えおよび内因性ガレクチン-1は、関節炎、ぶどう膜炎、脳脊髄炎、大腸炎などの自己免疫性炎症14-18や感染症19,20、がん21,22のモデルにおいて、Th2型サイトカインとして機能する。このような作用の機構としては、Th2細胞にはアポトーシスが起きず、Th1およびTh17細胞にのみ選択的にアポトーシスが起きるというメカニズムがおそらくはたらいている。この選択的アポトーシスは、細胞表面受容体の糖鎖修飾の違い17、あるいはTh2およびTh1細胞に対するTCRシグナルの差がもたらす選択的制御23によって生じていると考えられている。この点については、ガレクチンとサイトカインの間に相互制御が起きていることが、炎症およびがんに関連した状況下で報告されている。例えば、ガレクチン-1は一貫してIL-10の合成を誘導するとともにTNF-αおよびIFN-γの産生を抑制する15,16,21,24 25のに対し、ガレクチン-3はTNF-α、IL-6、およびIL-17を強く誘導する26–28。逆に、種々のサイトカインは、ガレクチンの発現を制御することができる。TNF-αやIFN-γなどの炎症性サイトカインは、ガレクチン-3およびガレクチン-9の発現を強く誘導し、TGF-βや免疫寛容誘発刺激はガレクチン-1の発現を強力に上昇させる29,30。このように、ガレクチンの最も目立った個性の1つは、可溶性サイトカインとして振る舞うことができ、それによって自然免疫および獲得免疫の応答をリプログラムできることである。この点において、ガレクチンファミリーのうちガレクチン-1、-3、-8、および-9などのいくつかのメンバーには、CD4+CD25+FoxP3+制御性T細胞の分化と安定化を促進するという重要な役割がある16,31–34

ガレクチンには他にも興味深い「人格」がある。ガレクチンは、走化性因子や遊走促進/阻害因子のように、炎症や感染、腫瘍の増殖が起きている部位への免疫細胞の遊走・動員を促進または抑制することができる。ガレクチン-3は、細菌や寄生虫、真菌感染に応答して好中球の運動性を高め、局所への動員を促進する35–37。ガレクチン-9は、細胞外マトリックス内のT細胞の遊走をサポートする38。一方、ガレクチン-1は、好中球やT細胞、樹状細胞の遊走を糖鎖依存的に阻害する39–42。興味深いことに、最近の研究において、ガレクチンがケモカインとヘテロ複合体を形成できることが明らかにされており、実際にガレクチン-3とCXCL12の相互作用が示されている43。この作用により、機能が抑制される場合もあれば、増強される場合もある44,45。ガレクチンとケモカインの『結婚』が、選択的な現象なのか、または、どのケモカインでもいいというような曖昧な現象なのかはわかっていない。また、炎症が糖鎖依存的なメカニズムを介してこれらの『結婚』を維持するのか、妨げるのかについても、答えは出ていない。

次に、ガレクチンが持つ第3の人格として「粘着性」を挙げる。ガレクチンは、同一の細胞種または異なる細胞腫の細胞間相互作用を正または負に制御することにより、細胞接着分子(cell adhesion molecule: CAM)としても機能できる。このコンセプトに沿った例をいくつか挙げる。ガレクチン-3は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)感染モデルにおいて、インテグリン非依存的なメカニズムにより好中球の血管細胞接着および血管外遊走を促進することができる46.。一方、ガレクチン-1は細胞外マトリックスへのT細胞接着を阻害し25、ガレクチン-9はCD44-ヒアルロン酸依存性の相互作用を阻害することによりT細胞接着を弱める47。病態生理学的な状況において、種々のガレクチンのネットワークが協調的に接着性を調節しているかどうかは、まだ解明されていない。

さらに、ガレクチンが他の分子と関わることにより生じる新たな人格は、免疫チェックポイント受容体と相互作用できることを利用することにより現れる。ガレクチン-3は、cytotoxic T lymphocyte antigen-4(CTLA-4)やlymphocyte activation gene-3(LAG-3)と結合することができ、T細胞活性化の閾値を調節する48,49。ガレクチン-1は、CD45と結合してそのホスファターゼ活性を調節する17,50。また、ガレクチン-9は、T cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3(TIM-3)およびprogrammed death 1(PD-1)の両方に結合して、T細胞機能を低下させる51。さらに、ガレクチン自体が、糖鎖を介してさまざまながん環境において抗腫瘍免疫応答の大きさや性質を再調整するチェックポイントとして機能することが示唆されている52。このようにガレクチンは、特定の共抑制性受容体である免疫チェックポイント受容体に働きかけることで腫瘍のランドスケープを形成できるため、がん免疫療法のターゲットとして有望であると言える。しかし、ガレクチンは免疫だけでなく、血管新生や組織への浸潤、増殖といったがんの他の性質にも関与していることから、腫瘍形成や転移においてもさまざまな役割を果たしている点にも注目すべきである53

最後に忘れてはならないもう一つの大事な人格について述べたい。すなわちガレクチンは「自己」または「非自己」を認識する能力を持つということだ。ガレクチンは、宿主-病原体相互作用において、パターン認識受容体(Pattern-recognition receptor: PRR)編集者注1や危険関連分子パターン(DAMP)/アラーミンとして機能することが示されている。実際、感染に際して、細胞内のガレクチン(ガレクチン-3、-8、および-9)は、細菌やウイルス、原虫を内包するエンドソーム/リソソームが損傷した場合、膜が損傷したことにより露出された糖鎖モチーフを認識して早期アラームシグナルを発し、オートファジー機構のさまざまな構成要素を動員することができる。したがってガレクチンは、細胞内小胞の異常や損傷を感知する監視機構を調整することで、細胞内の微生物防御と損傷修復にユニークな形で寄与していると考えられる54–56。さらにガレクチン-1は、細胞質におけるリポ多糖の感知およびその後に誘導される炎症性プログラム細胞死(パイロトーシスおよびネクロトーシス)によって放出されるアラーミンであることが確認されている57。したがってガレクチンは、細胞内の感染センサーとして働くことで炎症反応を再編成し、病原体の排除に貢献しているのかもしれない。

編集者注1:PRRは微生物に発現している特有のパターンや宿主が『危険』に晒されている時に現れる特有のパターンを認識する自然免疫に関与する受容体群のことを示す。


多重人格障害(解離性同一症とも呼ばれる)の原因は、対人的および環境ストレスに対する心理的反応である可能性が高いと考えられている58。同様に、ガレクチンが担っているさまざまな役割も、炎症や腫瘍形成、栄養欠乏、低酸素といった細胞内外のストレスに応じて、獲得されたり、切り替わったり、あるいは抑制されたりする可能性がある。つまりガレクチンは、糖鎖依存的あるいは非依存的に、細胞内外の機能をいくつも果たすよう進化してきたマルチタスクなタンパク質なのである。ガレクチンは、糖鎖複合体が提示する「糖鎖コード」を解読する能力を備えており、細胞や組織に豊富に存在し、さらには、受容体に対しての特異的なリガンドが存在しない状況下でも受容体と多価に(編集者注:糖鎖を介して)結合することにより相互作用を起こし、そしてこの(編集者注:糖鎖)構造的情報を生物学的応答へとつなげることができる3,59。このような能力を持っていることで、ガレクチンは高度に専門化された分子世界の中でユニークな存在となっているのだ。この複雑で魅力的なタンパク質ファミリーが持っているさまざまな人格については、その根底にある分子基盤が未だ謎に包まれており、今後も重要な研究テーマとなるだろう。なぜなら、私たちは皆、謎が大好きだからだ。

図1
図 1. ガレクチンに備わる多重人格性
免疫系においてガレクチンは、自然免疫および獲得免疫応答を調整する重要な機能を幅広く発揮することができ、正常および疾患状態における免疫細胞の協調的な振る舞いを作り出す上で重要な役割を担っている。興味深いことに、活性化、分化、遊走などの細胞プログラムの違いや、病原体の侵入、自己免疫による炎症、線維症、がんなどの病態により、同じガレクチンであっても、サイトカイン、遊走促進因子、細胞接着分子、免疫チェックポイントリガンド、パターン認識受容体、あるいはアラーミンとして機能しうる。

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