成長因子とヘパラン硫酸 | ||||||||||||||
多様な生物活性を果たすため、まずヘパラン硫酸(HS)やヘパリンは多様な特異的タンパク質と相互作用することが見出されてきた。表1はHSそしてヘパリン一結合性タンパク質の一部を、機能別に分類しリストしたものである。様々な機能の中でも特にHSやヘパリンは、細胞増殖や分化の制御に関わる機能が知られているが、その詳細なメカニズムはまだ完全に理解されていない。ただ一つの明らかなコンセンサスとして、HSやヘパリンが成長因子の活性を変化させることでこの機能を果たしていることははっきりしている。。線維芽細胞成長因子(FGFs)、血管内皮細胞成長因子、ヘパリン結合性上皮細胞成長因子、肝細胞成長因子(HGF)などの様々な成長因子がHSやヘパリンと結合し、強固な複合体を形成する。近年このような相互作用の機能的意義が盛んに研究されるようになった。特にHSやヘパリンは、いくつかのFGFファミリーの中の成長因子がもつ細胞増殖促進活性を制御するのに重要な役割をもち、その相互作用は成長因子が高親和性膜受容体との結合や生物学的活性のため必要不可欠なものであることが明らかになった。 成長因子の中でFGFファミリーは、少なくとも9つの異なるメンバーが知られており、広範な細胞特異性をもっている。HSやヘパリンの構造研究から、FGF-2との結合にはIdoA 2-O-sulfateとGlcN N-sulfateが必要で、その十糖あるいはそれ以上のサイズのオリゴ糖がFGF-2の細胞増殖活性を促進することができる。FGF-2とは対照的にGlcNS 6-O-sulfateは、FGF-1やFGF-7との特異的相互作用のために要求される。さらにHGFとの結合には、硫酸基をもたないIdoAを多く含むドメインが関与し、この結合性はGlcNS 6-O-sulfateの含量と深く関連している。このように、HSの高硫酸化ドメインにおけるN−硫酸基と様々なO−硫酸基の存在がそれぞれの成長因子との特異的結合性を与えている。 | ||||||||||||||
図の説明 HS-PG, FGF, 及びFGFレセプターの相互作用の2つのモデル (A)ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)のヘパラン硫酸(HS)鎖は2つまたはそれ以上のFGF分子と相互作用する。その結果、レセプターのシグナル伝達に必要な2量体化が誘導される。 (B)レセプターのシグナル伝達に、HS、線維芽細胞成長因子(FGF)及びFGFレセプターの3つのものの複合体形成が必要である。 | ||||||||||||||
では、HSやヘパリンがどのようにFGFとFGF受容体の結合性を高め、その生物活性を引き出していくのであろうか。この問題にはいろいろな説明ができるであろうが、最も可能性が高いと思われる2つのモデルを図に示した。HSやヘパリンが複数のFGFと結合し、FGFの多量体を誘導する(図−A)。このFGFの多量体化はFGF受容体の二量体化を引き起こし、受容体の活性化そしてシグナル伝達へと進んでいく(図−A)。対照的に、HSやヘパリンがFGFと受容体の両者に同時に結合する時、FGFの活性を促進できるというモデルも提唱されている(図−B)。どちらのモデルが正しいのか最終的結論はまだ出ていないし、実際はもっと複雑なものであるかもしれないけれども、今後の研究でその答えが出てくるであろう。 ここで私は、主にHS/ヘパリンとFGFの相互作用について記述した。しかし実際HSやヘパリンはFGFだけではなく、他の様々なヘパリン結合性成長因子と相互作用し、それらの活性を修飾する。ここで記述したようなFGFに関する概念のいくつかは、また他の成長因子にも当てはまるであろう。 | ||||||||||||||
石原 雅之(防衛医科大学・防衛医学研究センター) | ||||||||||||||
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1997年 12月 15日 | ||||||||||||||
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